冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
10. 一難去って
「いつになったら恵と風呂に入れるんだ……」
うなだれる了の声は、もはや消え入りそうだ。
「風呂だって? なにのんきなこと言ってるんだよ」
ジョージさんが入ってきた。
ここはマノの社長室、今は昼休みだ。夜通し会社に詰めていた疲労困憊の了を、速水社長が自ら車でピックアップしに行ってくれた。そして今はなんと、全員分の軽食を買い出しに行っている。
私は恐縮しきりだが、『あなたの務めは夫のそばにいることよ』と言われてしまっては抗えない。実際、つれてこられた了も、私の顔を見たとたん、ピリピリした空気を崩し、ほっと息をついて、『早織』とつぶやいた。
応接セットのソファにぐったり座り込んでいる了の肩を叩き、ジョージさんが隣に座った。
「しっかりしろ、一度家に帰って休め」
「そういうわけにも……」
「そんなヘロヘロで、なんの役に立つんだよ。せめて社長らしく振る舞えるまで回復してから人前に顔出せ、バカ」
「あの記事、どうしてこのタイミングで出たの? まさか……」
私の言葉をさえぎるように、「私じゃないです!」と人影が飛び込んできた。ぎょっとして戸口のほうを見て、さらにぎょっとした。舞塚さんだった。
「私、性格ねじ曲がってますけど、嘘は嫌いです。先日お約束したとおり、私はもう狭間さんと伊丹さんにかかわるつもりはありません」
「わかってるよ、大丈夫。こっちへおいで」
ジョージさんに招き寄せられ、彼女が崩れるようにソファに座る。私は呆然としつつその様子を見ていた。了も気落ちしているどころじゃなくなったらしい。目を丸くして彼らに釘付けだ。
「え、ふたり、一緒にいらしたの……?」
「ジョージ、お前……」
ジョージさんは舞塚さんの肩を抱き、「え?」とだらしない笑顔を私たちに向けた。女好きそうだなとは思っていたけれど……。