争いの跡に
カーンカーン。と、響く授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。オリビアは、パトロールが終わり次第リアムとの約束していたバラ園のベンチに腰を掛けて待っていた。
ここに来る前に、チェイスに言われたこと。
『オリビアって、先生のこと好きなんだろ?なんでそれを隠すんだよ』
ハッキリ言うと彼の言葉は、胸にぐさっと刺さった。
好きになったきっかけは、単純だった。
~四年前~
当時の私は、幼馴染のチェイスとシェリルしか話し相手がいなかった。魔の国の住人、しかも魔の国の次期女王だと言えば怖がるものしかいない。それは、友達問わず教師たちも。良く呼び出されては、やってもいないことで責められた。
「コレだから、魔王の娘は・・・」
「お前の父親のせいで、何十人死んだと思っている」
「また、お前も戦争を起こそうとしているのだろう!?」
「なんとか言ったらどうなんだ」
もう、こんな言葉は言われ慣れてる。こういう時は、心の扉をそっと閉めるの。誰にも、触れさせない傷つかないそう生きていくんだ。
「そんな言葉、教師がいうことですか?」
ふと、私の頭上から降ってくる優しい声。
「リアム先生っ!?」
「彼女が、なにか悪いことでもしたんですか?」
「この生徒は、魔の国の次期女王ですよ?」
「だからなんですか?一生徒には、変わりないでしょう?」
そのあと、先生に連れられ稽古でもとバラ園へと向かった。ベンチに腰を下ろすと、タバコに火をつける先生。ふぅー・・・と、先生の口から出た白い煙は天に向かい消えていった。
「先生、いいのですか?」
「何がです?」
「だって・・・私なんかのこと庇ったりなんてして、あとでなんか言われたりとかしません?」
「あはは。僕は、もともと浮いてますからね・・・それに」
「?」
「戦争はもうとっくに終わっているのに、今更なんだって感じなんですよ。」
「そうですね・・・」
「泣いても良いんですよ」
「え?」
「誰だって泣きたい時はあります。オリビアちゃんが、泣きたい時は、僕が傍にいますよ」
ポンッ。と、頭に置かれた優しい手に声に言葉に私は、救われたんだ。その時の私は、まるで悪戯をして怒られた子供の様に泣き叫んだ。それを全て、受け止めてくれた先生のことを私は・・・今でも、好きだ。
~そして、現在~
「お待たせしました、オリビアちゃん」
その笑顔に何度救われたことかわからない。
稽古を少しして、先生は息を切らしながら『待った!』と、言ってベンチに腰掛けてタバコに火をつけるいつも通りに。その隣に、不機嫌そうに座るオリビア。
「先生、タバコやめた方がいいんんじゃないですか?」
「良いんですよ。美味しいから」
ふぅー・・・。と、ため息混じりの煙を吐き出された。
勇気を持って顔を真っ赤に染め尋ねた。
「せ、先生って・・・恋人ととかいないんですか?」
リアムは、目を丸くして驚いているかのようだった。
「恋人ですか・・・今は、考えてないですね。まぁ、人間でこんなボンクラ誰も好きになってくれませんよ」
あははは。と、タバコを片手に笑うリアムにオリビアは立ち上がる。
「そ、そんな!!!先生のことを大切に思ってくれている人・・・・いると思うから、その人に失礼です!!」
「それは・・・誰のことを言ってるのですか?」
彼女の手を取り、真顔で見つめるとオリビアは固まって何も言えなくなってしまう。
「そ、それは・・・ち・・・」
「ち?」
「チェイスとか?」
「それは、ご遠慮申したいです」
頭の中が一瞬で、バラになる。
「ちゃんと言って下さい」
「それは・・・」
嗚呼、この人は本当に意地悪だ。私の気持ちを絶対に知っているはずなのに、けして言葉にして言ってくれない。
「わた・・・わた・・・」
最後の一言を言おうとしたその瞬間。
「あ、いたいた。オリビア~」
そこに、現れたのはチェイスだった。
「行かないとっ」
「オリビアちゃんっ!また、ここで・・・待ってますから」
彼女にとってどれだけその言葉が嬉しかったか、オリビアはなにも言わずに礼けをして帰っていった。
「愛してます」
リアムのこの言葉は、もう彼女の耳には届かなかった。