Monkey-puzzle
◇
「渋谷、あのアウトドアブランドの鎌倉本店のワークショップの件、どうなった?」
「店長とアポとれてます。資料はまとめて、送信済み。俺が最後にメッセージ添えて送ったやつ、真理さんにも送っといた。」
「ありがとう。後は…新宿駅の物産展は?」
「そっちも、最後の資料で先方にオッケー貰えてます。真理さんとの打ち合わせ楽しみにしてるってさ。」
本当に、渋谷が来てから驚く程スムーズに仕事が進むようになった。
相変わらず私は課内の嫌われ者ではあったけれど、渋谷の立ち振る舞いのおかげかそれを感じる瞬間が軽減した気がするし。
本当に“出来る人”ってこういう人の事を言うんだろうな…。
並んで歩いてる横顔を尊敬の念を抱きつつ見ていたら、不意に視線がぶつかった。
「ん?何?」
「べ、別に!」
見ていた事が知れて、顔が一気に熱を持つ。
気まずくなって足早に歩を進めようと踏み出した途端にピンヒールがぐらついて、倒れそうになった。
次の瞬間、腕を強く掴まれる。
「あっぶなっ…気をつけなよ。」
「ご、ごめん…。」
「真理さん意外とよくコケてるよね。ヒールもっと低くすればいいのに。」
実際に転んだ事とこれまでの転倒を見られていた事への羞恥心が込み上げて、今度は身体も熱くなる。
「こ、この方が足がスラッと見えてかっこいいからいいの!」
「いや、こけたら充分かっこわるいでしょ。それ以前に危ないし。」
「別に多少躓いたって平気だよ、怪我する訳でもないんだしさ…。」
ムキになる私に渋谷が呆れた様にため息をつくと、掴んでる腕を引っ張って私を少し引き寄せた。
「わかってないね。いつも俺が助け起こすとは限らないつってんだよ。
ほかの野郎に助け起こされてお持ち帰りされたらどうすんだよ。」
また…鼓動が勝手に跳ね上がり、身体の熱が増した。
「だ、誰もしないし!」
自分の反応を絶対に悟られたくなくて、強めに手を振り払うと体制を立て直して先に歩き出す。
確かに仕事では信頼しているし一緒に居て嫌な感じは無いけど、調子が狂うこの口説きだけはなんとかして欲しい。
渋谷にとってはただの軽いスキンシップでも私はあなたとは違うんだから。
「待ってよ」と楽しそうに追いかけて来る渋谷を一睨みするのと同じくして、クラッチバックに入れているプライベート用のスマホが震えた。
取り出してみたら橘さんからのメッセージ。
また何か面白い事が書いてあるかもしれないと、どうしても読みたくなった。
書庫整理部に行くのも時間がかかるしな…。
「私、ちょっと給湯室に寄って行くから、先に戻ってて。」
「…何、また智ちゃん?」
「か、関係ないでしょ…あんたには。」
渋谷が目を細めて不服そうに私を見てる。
「…俺も給湯室行こ。」
「ちょ、ちょっと何で…」
「別に?普通に用事があるから。」
私の抗議に聞く耳を持たない渋谷に「ほら行くよ」と背中を押されて二人で入った給湯室。大の大人二人が入ると、ただでさえ狭いスペースが更に狭く感じた。
「用事…早く済ませたら?」
私が追い払おうとしているのがバレバレだったのだと思う、渋谷はまた不服そうに私を見てから目の前に立った。
その圧迫感に後ろに少したじろいだら、腰にシンクが触れる。
「な、何…?」
「や…真理さんにお願いがあるんだよね、俺。」
表情が少し挑発的な笑顔に変わる渋谷。
「俺ね?今日誕生日なんですよ」
「そ、そうなの?」
「うん。だから真理さんからプレゼント欲しいなーって思って。こんな事、廊下や課に戻ってからじゃ言えないでしょ?」
なるほど、それで『用事』…か。
理由が分かって、緊張が一気に解けた。
だけど、それは束の間の話。
「おめでとう。いいよ、プレゼントあげる。」
「本当に?!」
「うん、渋谷には沢山助けてもらって感謝してるし。」
無邪気に喜ぶ彼に完全に油断していたって思う。
黒縁眼鏡の奥の挑発的な目がそのままだと言う事に、全く気が付かなかった。
「それで?何が欲しいの?」
「真理さん。」
.
「渋谷、あのアウトドアブランドの鎌倉本店のワークショップの件、どうなった?」
「店長とアポとれてます。資料はまとめて、送信済み。俺が最後にメッセージ添えて送ったやつ、真理さんにも送っといた。」
「ありがとう。後は…新宿駅の物産展は?」
「そっちも、最後の資料で先方にオッケー貰えてます。真理さんとの打ち合わせ楽しみにしてるってさ。」
本当に、渋谷が来てから驚く程スムーズに仕事が進むようになった。
相変わらず私は課内の嫌われ者ではあったけれど、渋谷の立ち振る舞いのおかげかそれを感じる瞬間が軽減した気がするし。
本当に“出来る人”ってこういう人の事を言うんだろうな…。
並んで歩いてる横顔を尊敬の念を抱きつつ見ていたら、不意に視線がぶつかった。
「ん?何?」
「べ、別に!」
見ていた事が知れて、顔が一気に熱を持つ。
気まずくなって足早に歩を進めようと踏み出した途端にピンヒールがぐらついて、倒れそうになった。
次の瞬間、腕を強く掴まれる。
「あっぶなっ…気をつけなよ。」
「ご、ごめん…。」
「真理さん意外とよくコケてるよね。ヒールもっと低くすればいいのに。」
実際に転んだ事とこれまでの転倒を見られていた事への羞恥心が込み上げて、今度は身体も熱くなる。
「こ、この方が足がスラッと見えてかっこいいからいいの!」
「いや、こけたら充分かっこわるいでしょ。それ以前に危ないし。」
「別に多少躓いたって平気だよ、怪我する訳でもないんだしさ…。」
ムキになる私に渋谷が呆れた様にため息をつくと、掴んでる腕を引っ張って私を少し引き寄せた。
「わかってないね。いつも俺が助け起こすとは限らないつってんだよ。
ほかの野郎に助け起こされてお持ち帰りされたらどうすんだよ。」
また…鼓動が勝手に跳ね上がり、身体の熱が増した。
「だ、誰もしないし!」
自分の反応を絶対に悟られたくなくて、強めに手を振り払うと体制を立て直して先に歩き出す。
確かに仕事では信頼しているし一緒に居て嫌な感じは無いけど、調子が狂うこの口説きだけはなんとかして欲しい。
渋谷にとってはただの軽いスキンシップでも私はあなたとは違うんだから。
「待ってよ」と楽しそうに追いかけて来る渋谷を一睨みするのと同じくして、クラッチバックに入れているプライベート用のスマホが震えた。
取り出してみたら橘さんからのメッセージ。
また何か面白い事が書いてあるかもしれないと、どうしても読みたくなった。
書庫整理部に行くのも時間がかかるしな…。
「私、ちょっと給湯室に寄って行くから、先に戻ってて。」
「…何、また智ちゃん?」
「か、関係ないでしょ…あんたには。」
渋谷が目を細めて不服そうに私を見てる。
「…俺も給湯室行こ。」
「ちょ、ちょっと何で…」
「別に?普通に用事があるから。」
私の抗議に聞く耳を持たない渋谷に「ほら行くよ」と背中を押されて二人で入った給湯室。大の大人二人が入ると、ただでさえ狭いスペースが更に狭く感じた。
「用事…早く済ませたら?」
私が追い払おうとしているのがバレバレだったのだと思う、渋谷はまた不服そうに私を見てから目の前に立った。
その圧迫感に後ろに少したじろいだら、腰にシンクが触れる。
「な、何…?」
「や…真理さんにお願いがあるんだよね、俺。」
表情が少し挑発的な笑顔に変わる渋谷。
「俺ね?今日誕生日なんですよ」
「そ、そうなの?」
「うん。だから真理さんからプレゼント欲しいなーって思って。こんな事、廊下や課に戻ってからじゃ言えないでしょ?」
なるほど、それで『用事』…か。
理由が分かって、緊張が一気に解けた。
だけど、それは束の間の話。
「おめでとう。いいよ、プレゼントあげる。」
「本当に?!」
「うん、渋谷には沢山助けてもらって感謝してるし。」
無邪気に喜ぶ彼に完全に油断していたって思う。
黒縁眼鏡の奥の挑発的な目がそのままだと言う事に、全く気が付かなかった。
「それで?何が欲しいの?」
「真理さん。」
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