Monkey-puzzle
一瞬、息を吸う事すら忘れてたって思う。
渋谷が更に歩み寄って硬直したままの私をシンクへ追い詰めると身体の両端に手をついた。
何…?
どう言う事?
私はただ、プレゼントは何が良いかを聞いただけで…
「俺、真理さんが欲しいんだけど。」
黒縁眼鏡の奥の瞳が妙に色っぽさを放っていて、思わずゴクリと生唾を飲み込む。
だ、だめ…ペースに飲まれたら。これはいつもの渋谷の『口説き』なんだから。
「や、やめてよ…こ、こんな手の込んだ冗談は。」
彼の胸元を押す手が震える程に弱気で、自分でも驚いた。
「…冗談でも何でもないんですけど。」
「だ、だったら尚更質が悪いよ?何で…私?あんたモテるでしょ?他あたってよ。」
「知らないよ、自分がモテるかどうかなんて。俺は真理さんしか見てないから。」
胸元を押している両手の手首を掴まれてもっとその黒縁眼鏡が近づいて来た。
「真理さんの事はよくわかるよ?好きなんでしょ?俺の事。」
なっ…何言ってんの、こいつ!
更に頬が熱を帯びる。
「な、何言って…」
「だって、顔が赤いよ?」
「わ、私、厚化粧なの!チークが濃いの!そ、そんなに近寄ると化粧臭いよ!」
放った言葉に「どれ」と声が聞こえて、頬に少しだけ生暖かい感触。
「な、舐め?!」
「だって、手が塞がってるから。チークが濃いか確かめるには口しか無いし。」
楽しそうにくふふと笑う渋谷の顔がもはやぼやけてよく見えない。
今、その位混乱し戸惑っている。
そんな私の反応を楽しんでいる様子の渋谷は、今度は耳に少しだけ下唇が触れさせて鼓膜に息が直接かかるような吐息まじりの声で囁いた。
「チークじゃないみたいよ?だってほら、耳も同じ色」
ささやきに反応して、勝手に早くなる鼓動。
熱くなる身体。
そうやって翻弄されている自分がすごく嫌で、初めて渋谷に嫌悪感を抱いた。
「…な、何が目的なわけ?」
「目的?」
「そ、そうだよ…いつも私の事こうやってからかってさ…。」
掴まれてる手首がやけにジンジンと痺れを感じる。
「私に目的も無く近づくなんてあり得ないでしょ?」
これだけ社内で嫌われているんだよ?その位の自覚はある。
実際に過去に、『真田には内緒ね』と近づいて来た男の人も居た。そう言う人は、表面的に活躍している亨に嫉妬心を抱いているか、私自身の仕事を取り上げたいかどちらか。
「そりゃ…目的はあるでしょ。こうやって口説いている以上は。」
渋谷の言葉に目頭が熱くなる。
おかしいな…慣れてるはずの事なのに。
渋谷にそう言われるのは凄く嫌だと思ってる。
「…言っとくけど、亨とは別れてるから私にちょっかい出しても彼にダメージは与えられないよ。手がけている仕事のリーダーをあなたに譲るつもりもない。そしてあなたの仕事をこっそり手伝うなんて事も私はしない。」
精一杯の抵抗で睨んだ先の渋谷は一瞬間を置いて含み笑いを始めた。
「な、何…?」
「や、だって。何それって思ってさ」
「だ、だって“目的”って…」
「うん、だから目的はあるんだってば。」
手首が解放された代わりに頬を包み込まれる。
「真理さんを俺のもんにすんの。」
「他にあんの?」と小首を傾げる渋谷。
「…そんなストレートに言われて誰が『はい、そうですか』ってひっかかるのよ。」
「真理さん。」
「残念ながら私はひっかからない。」
「ひっかかってよ。大体、好きだから好きつって何が悪いんだよ。真田さんと付き合ってないんでしょ?何か問題ある?」
その理路整然とした物言いに次に発するべき言葉が見つからない。口をつぐんだ私を渋谷は満足そうに笑っておでこをこつんとつけた。
「あー可愛い。」
…渋谷の“可愛い”の定義、絶対間違ってる。
「わ、私…面倒くさいよ?」
「うん、よく知ってる」
「もう33歳だし…。」
「うん、知ってるよ?ちなみに俺は今日で30歳。ひとつ追いついた。」
笑う息が鼻にかかってくすぐったい。
「…他に何か言う事ありますか?」
「メガネがあたって痛いから離れて」
「やだ。」
「……。」
「好きでしょ?俺の事」
「…。」
再び押し黙った私を嬉しそうに抱きしめる渋谷。
「…真理さんが好き。すっごい好き。」
彼の言葉に心音が軽快なリズムを刻み出し、さっき抱いた嫌悪感はいつの間にか消えていた。
私…渋谷の事が好き…なんだろうか。
戸惑いつつも重ねた唇は、やけに暖かくて甘さを含んでいる気がした。
渋谷が更に歩み寄って硬直したままの私をシンクへ追い詰めると身体の両端に手をついた。
何…?
どう言う事?
私はただ、プレゼントは何が良いかを聞いただけで…
「俺、真理さんが欲しいんだけど。」
黒縁眼鏡の奥の瞳が妙に色っぽさを放っていて、思わずゴクリと生唾を飲み込む。
だ、だめ…ペースに飲まれたら。これはいつもの渋谷の『口説き』なんだから。
「や、やめてよ…こ、こんな手の込んだ冗談は。」
彼の胸元を押す手が震える程に弱気で、自分でも驚いた。
「…冗談でも何でもないんですけど。」
「だ、だったら尚更質が悪いよ?何で…私?あんたモテるでしょ?他あたってよ。」
「知らないよ、自分がモテるかどうかなんて。俺は真理さんしか見てないから。」
胸元を押している両手の手首を掴まれてもっとその黒縁眼鏡が近づいて来た。
「真理さんの事はよくわかるよ?好きなんでしょ?俺の事。」
なっ…何言ってんの、こいつ!
更に頬が熱を帯びる。
「な、何言って…」
「だって、顔が赤いよ?」
「わ、私、厚化粧なの!チークが濃いの!そ、そんなに近寄ると化粧臭いよ!」
放った言葉に「どれ」と声が聞こえて、頬に少しだけ生暖かい感触。
「な、舐め?!」
「だって、手が塞がってるから。チークが濃いか確かめるには口しか無いし。」
楽しそうにくふふと笑う渋谷の顔がもはやぼやけてよく見えない。
今、その位混乱し戸惑っている。
そんな私の反応を楽しんでいる様子の渋谷は、今度は耳に少しだけ下唇が触れさせて鼓膜に息が直接かかるような吐息まじりの声で囁いた。
「チークじゃないみたいよ?だってほら、耳も同じ色」
ささやきに反応して、勝手に早くなる鼓動。
熱くなる身体。
そうやって翻弄されている自分がすごく嫌で、初めて渋谷に嫌悪感を抱いた。
「…な、何が目的なわけ?」
「目的?」
「そ、そうだよ…いつも私の事こうやってからかってさ…。」
掴まれてる手首がやけにジンジンと痺れを感じる。
「私に目的も無く近づくなんてあり得ないでしょ?」
これだけ社内で嫌われているんだよ?その位の自覚はある。
実際に過去に、『真田には内緒ね』と近づいて来た男の人も居た。そう言う人は、表面的に活躍している亨に嫉妬心を抱いているか、私自身の仕事を取り上げたいかどちらか。
「そりゃ…目的はあるでしょ。こうやって口説いている以上は。」
渋谷の言葉に目頭が熱くなる。
おかしいな…慣れてるはずの事なのに。
渋谷にそう言われるのは凄く嫌だと思ってる。
「…言っとくけど、亨とは別れてるから私にちょっかい出しても彼にダメージは与えられないよ。手がけている仕事のリーダーをあなたに譲るつもりもない。そしてあなたの仕事をこっそり手伝うなんて事も私はしない。」
精一杯の抵抗で睨んだ先の渋谷は一瞬間を置いて含み笑いを始めた。
「な、何…?」
「や、だって。何それって思ってさ」
「だ、だって“目的”って…」
「うん、だから目的はあるんだってば。」
手首が解放された代わりに頬を包み込まれる。
「真理さんを俺のもんにすんの。」
「他にあんの?」と小首を傾げる渋谷。
「…そんなストレートに言われて誰が『はい、そうですか』ってひっかかるのよ。」
「真理さん。」
「残念ながら私はひっかからない。」
「ひっかかってよ。大体、好きだから好きつって何が悪いんだよ。真田さんと付き合ってないんでしょ?何か問題ある?」
その理路整然とした物言いに次に発するべき言葉が見つからない。口をつぐんだ私を渋谷は満足そうに笑っておでこをこつんとつけた。
「あー可愛い。」
…渋谷の“可愛い”の定義、絶対間違ってる。
「わ、私…面倒くさいよ?」
「うん、よく知ってる」
「もう33歳だし…。」
「うん、知ってるよ?ちなみに俺は今日で30歳。ひとつ追いついた。」
笑う息が鼻にかかってくすぐったい。
「…他に何か言う事ありますか?」
「メガネがあたって痛いから離れて」
「やだ。」
「……。」
「好きでしょ?俺の事」
「…。」
再び押し黙った私を嬉しそうに抱きしめる渋谷。
「…真理さんが好き。すっごい好き。」
彼の言葉に心音が軽快なリズムを刻み出し、さっき抱いた嫌悪感はいつの間にか消えていた。
私…渋谷の事が好き…なんだろうか。
戸惑いつつも重ねた唇は、やけに暖かくて甘さを含んでいる気がした。