Monkey-puzzle
一時はどうなる事かと思ったけど、これで無事にワークショップも開催できそう。
タブレットを鞄に仕舞っていると、軽快なピンヒールの音が目の前で止まった。
「木元さん、本当にありがとうございます。」
東栄デパートの企画営業部の田所さんが、私に嬉しそうにぺこりと頭を下げる。
つややかな黒髪がサラリと肩から落ちた。それを耳にかけながら、控えめな笑顔で顔を上げる。
相変わらず綺麗な人だな。私と違って醸し出してるオーラが優しい。
ピンヒールだって私より高いくらいなのにコケている所を見た事無いし。若いから私より骨がしっかりしてるのかな。
「この後、決起集会じゃないですが…お食事する場を設けさせて頂いたので、木元さん達もよろしければいらしていただけませんか?」
「よろしい…んですか?」
「はい、もちろん!」
満面の笑みに変わるその顔がキラキラまぶしい。
前にみっちゃんが『ネイルサロンは、若い子が多くてキツい』と言ってたっけ。
対面する相手が可愛ければ可愛い程…キラキラに押されるのよね、この歳になると。
ご招待に甘えて参加させて貰った会食は、少し照明がブラウン系のおしゃれな居酒屋で行なわれた。
大人同士の軽い挨拶から始まり、世間話、営業トーク…あちこちで歓談の輪がいくつも出来て、終始和やかに雰囲気の良い時間が過ぎて行く。
だけど…ああ、そういう事かとそこで気がついてしまった。
ずっと渋谷の側を離れない田所さん。
ほかの方と、談笑しながらもさりげなく渋谷の隣をキープしている。
…恐るべし、女子スキルの高さだ。
凄いなあ…あの半分でも私に備わってたら違うだろうに。
周りから「お似合いじゃないですか!」とはやし立てられて、田所さんがやめてください、失礼ですよ…と顔を赤くするのを渋谷は楽しげに笑ってる。
何だか満更でもなさそうじゃない?鼻の下伸びてない?
…亨の時は日常茶飯時だったあんな場面。だけどそれが亨だからと受け入れていられたのに。
確実に今、思った『渋谷め』って。
器の小さい自分に感じた羞恥心。思わず、目の前のグラスを飲み干した。
「田所さん、恭介がお気に入りみたいだね。」
いつの間にか隣に来ていた橘さんが私のグラスにカチンと自分のをつけた。
「そうみたいですね。」
「気に食わないとか?」
「もう…橘さん、人が悪いです。」
橘さんのイタズラな表情に少しだけドキッとした心うち。それを隠すように冗談めいて笑う。
「…後輩はみんな可愛いですよ。」
「なら良かった。今日はまだ時間も早いし、木元さんと少しこの後二人で飲めるかな、なんて思ってるんだけど。」
「どう?」と少し覗き込む橘さんはやっぱり少しイタズラっ子みたいな表情で笑ってる。
どう…しよう。
『真理さん、今日絶対一緒に帰ろうね』
変わらず談笑を続けてる渋谷と田所さんに目を向けた。
…この雰囲気だと渋谷は田所さんを送って行く事になりそうだしな。
仕事…だよね、これも。
「…橘さんに誘って頂けるなんて、光栄です。お供させてください」
「マジで?!」
私の返事に、大きな目が更に見開いて瞳がビー玉の様にキラリと綺麗に輝きを放った。
「あーやべっ。かなり嬉しいかも。」
そんなに喜んで頂けるなら…お受けして良かったかな、やっぱり。
橘さんは「じゃあ」とスマホを取り出して、どこかへ連絡してる。
「期待してて?かなりイイ所にご案内します、姫。」
唇の片端をクッとあげた彼に、思わず吹き出した。
「いや、笑う所じゃないんだけど。寧ろ、『キャーかっこいい!』ってときめいてほしいんだけど。」
「だって!橘さん、かっこいいのにかっこつけるから!」
「え?何それ、どういうこと?つまりは…かっこいいの?かっこ悪ぃのどっち?」
「すみません。」と笑いながら少し頭を下げた私に少し苦笑い。
「うん、まあ…笑ってくれんなら何でもいいんだけどね、俺は。」
やっぱり、橘さんと話す空間は心地いい…な。
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タブレットを鞄に仕舞っていると、軽快なピンヒールの音が目の前で止まった。
「木元さん、本当にありがとうございます。」
東栄デパートの企画営業部の田所さんが、私に嬉しそうにぺこりと頭を下げる。
つややかな黒髪がサラリと肩から落ちた。それを耳にかけながら、控えめな笑顔で顔を上げる。
相変わらず綺麗な人だな。私と違って醸し出してるオーラが優しい。
ピンヒールだって私より高いくらいなのにコケている所を見た事無いし。若いから私より骨がしっかりしてるのかな。
「この後、決起集会じゃないですが…お食事する場を設けさせて頂いたので、木元さん達もよろしければいらしていただけませんか?」
「よろしい…んですか?」
「はい、もちろん!」
満面の笑みに変わるその顔がキラキラまぶしい。
前にみっちゃんが『ネイルサロンは、若い子が多くてキツい』と言ってたっけ。
対面する相手が可愛ければ可愛い程…キラキラに押されるのよね、この歳になると。
ご招待に甘えて参加させて貰った会食は、少し照明がブラウン系のおしゃれな居酒屋で行なわれた。
大人同士の軽い挨拶から始まり、世間話、営業トーク…あちこちで歓談の輪がいくつも出来て、終始和やかに雰囲気の良い時間が過ぎて行く。
だけど…ああ、そういう事かとそこで気がついてしまった。
ずっと渋谷の側を離れない田所さん。
ほかの方と、談笑しながらもさりげなく渋谷の隣をキープしている。
…恐るべし、女子スキルの高さだ。
凄いなあ…あの半分でも私に備わってたら違うだろうに。
周りから「お似合いじゃないですか!」とはやし立てられて、田所さんがやめてください、失礼ですよ…と顔を赤くするのを渋谷は楽しげに笑ってる。
何だか満更でもなさそうじゃない?鼻の下伸びてない?
…亨の時は日常茶飯時だったあんな場面。だけどそれが亨だからと受け入れていられたのに。
確実に今、思った『渋谷め』って。
器の小さい自分に感じた羞恥心。思わず、目の前のグラスを飲み干した。
「田所さん、恭介がお気に入りみたいだね。」
いつの間にか隣に来ていた橘さんが私のグラスにカチンと自分のをつけた。
「そうみたいですね。」
「気に食わないとか?」
「もう…橘さん、人が悪いです。」
橘さんのイタズラな表情に少しだけドキッとした心うち。それを隠すように冗談めいて笑う。
「…後輩はみんな可愛いですよ。」
「なら良かった。今日はまだ時間も早いし、木元さんと少しこの後二人で飲めるかな、なんて思ってるんだけど。」
「どう?」と少し覗き込む橘さんはやっぱり少しイタズラっ子みたいな表情で笑ってる。
どう…しよう。
『真理さん、今日絶対一緒に帰ろうね』
変わらず談笑を続けてる渋谷と田所さんに目を向けた。
…この雰囲気だと渋谷は田所さんを送って行く事になりそうだしな。
仕事…だよね、これも。
「…橘さんに誘って頂けるなんて、光栄です。お供させてください」
「マジで?!」
私の返事に、大きな目が更に見開いて瞳がビー玉の様にキラリと綺麗に輝きを放った。
「あーやべっ。かなり嬉しいかも。」
そんなに喜んで頂けるなら…お受けして良かったかな、やっぱり。
橘さんは「じゃあ」とスマホを取り出して、どこかへ連絡してる。
「期待してて?かなりイイ所にご案内します、姫。」
唇の片端をクッとあげた彼に、思わず吹き出した。
「いや、笑う所じゃないんだけど。寧ろ、『キャーかっこいい!』ってときめいてほしいんだけど。」
「だって!橘さん、かっこいいのにかっこつけるから!」
「え?何それ、どういうこと?つまりは…かっこいいの?かっこ悪ぃのどっち?」
「すみません。」と笑いながら少し頭を下げた私に少し苦笑い。
「うん、まあ…笑ってくれんなら何でもいいんだけどね、俺は。」
やっぱり、橘さんと話す空間は心地いい…な。
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