Monkey-puzzle
◇◇




ワークショップ開催の主催者である東栄デパートの計らいで行われた会食。
お開きになる直前、真理さんからメッセが送られて来た。


『今日はお疲れ様でした、このまま流れ解散だから』


あーやっと真理さんお持ち帰りの時間が来た。


『じゃあ、駅で待ってる』


なんて、浮かれ気味の俺に鉄槌のメッセージ。


『あなたは田所さんを送って行ってあげないと』


何でだよ…。

思わず、スマホの画面を本気で睨みつけた。


『私も橘さんともう少し話をして行く事になったから。
ごめんね、誕生日祝ってあげられなくて。でも、おめでとう!』


…最悪。


近づこうにも、お偉いさんやら智ちゃんやらに囲まれすぎてて全く近寄れなくて話す事無く本当に流れ解散。
このまま智ちゃんに取られてたまるかと、再びスマホでメッセージを送った。


『田所さんは高橋が送るって』

『高橋はほとんど田所さんと話をしてなかったでしょ?
渋谷とはずっと話してたわけだし、渋谷が送ってあげて?』

『やだ』

『仕事でしょ!』

『智ちゃんと二人で飲むのも仕事なわけ?』


売り言葉に買い言葉で送ったメッセージの返信は待てど暮らせど来なくて、智ちゃんと変わらず歓談している真理さんに目を向けると、一瞬だけ視線があって睨まれた。

“当たり前でしょ”って事ね。


「渋谷さん、どうかされましたか?」


田所さんが俺の機嫌が悪くなった事を素早く察知して覗き込む。
本当に周囲をきちんと見ている人だよね。アンテナをしっかり張り巡らせていて対応しつつも、それをあからさまにしない。

田所さんの横で、上司らしき人が上機嫌で俺に絡んだ。


「渋谷さ~ん、うちの田所は本当にいい子なんですよ!よろしくお願いしますよ!」
「も~課長、酔い過ぎです。」


そして社内でも円滑な人間関係をちゃんと築き上げている、『良く出来た人』。


「すみません。課長が変な事を…」

「いえ。俺こそ、田所さんのお相手として課長に選ばれて光栄です。」


にこやかに笑ってみせると、田所さんは少し俯き気味に頬を赤くする。


…まあ、好かれてんのかなってなんとなくはね。

会食中もあれだけべったりされてたし、その前から社用のメールもなんだかんだ用事をつけて頂いてたし。


「渋谷、お前やっぱりすげーな。田所さんに気に入られるとか…」


本気で感心している高橋に苦笑い。

別に凄くも何ともないでしょ、こんなの。
俺から見りゃ、あれだけ真理さんに買われてるお前のが凄いって思うわ。


「…譲るよ、高橋。」
「いいや、俺には高嶺の花だ!俺はお前を応援する!」


周りがこうやって色々言うのはスルーすればいい話で大して気にならない。


『渋谷、よろしくね!』


だけど、真理さんに言われんのはムカつく。
俺、言ったよね?真理さん以外、興味ないって。

普通、少しは心配になんじゃないの?
自分の事をつい数時間前口説いてたヤツが他の女の子送ってくとか。


『くれぐれも、失礼の無い様に。』


はいはい、『仕事』だもんね。
そりゃ俺はいくらでも、真理さんの言う事なら聞きますよ?


それだけ…あなたの存在は俺の中でデカいから。


ふっと諦めの溜息を密かに吐き出し、タクシー捕まえる。「送ります」と田所さんに声をかけて、嬉しそうに頬を染める彼女と一緒に乗り込んだ。


真理さんは智ちゃんと二人で飲みに…か。

漠然と嫌な予感が脳裏を掠めた。

場所聞き出して迎えに行った方がいいかな。でも本人が「仕事だ」つってんだし。行ったら、また脛を蹴られそう。

背もたれに深く寄りかかって、今度は大きく息を吐く。

いつの間にかタクシーはアパートの前に停まった。


「すみません、送って頂いて。…もし宜しければ、コーヒーでも飲んで休んで行きませんか?」


まあ…悪くないけどね、積極的な女子。


「田所さんにそう言ってもらえて嬉しいんだけど、今日は帰ります」
「そう…ですか」
「うん。俺、送りオオカミはしない主義でして。」


笑った俺に、少し目を見開いてから、恥ずかしそうに俯く姿も完璧。
モテんだろうね、この人。

これだけ綺麗で可愛くて、タイミング良くこうやって隙を作る。そりゃ男がほっとかないでしょ。


まぁ…俺は本気で真理さんしか興味ないけどね…。

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