Monkey-puzzle
コンコン
唇が触れ合いそうになる瞬間に割って入るノック音。
「失礼しまーす。そこまでにしといたらどうですか?真田課長。」
雰囲気にそぐわない程、明るい声が会議室内に響いた。
渋谷…?
目線の先がぼやけてよく見えない。けれど、亨の身体が私から少し離れたのは確か。
「この人の心配すんのは俺の役目なんで。」
渋谷の声がすぐそこでしているはずなのに、遠く聞こえる。
「真田課長は3課の事、全力で考えて頂いて大丈夫ですよ?」
ねえ、渋谷。あんたは誰を…何を庇ってる?
私の手首を掴んでいる亨の手を更に渋谷が握る。
「…いい加減離せよ、この手を。」
私から亨を遠ざけて、何を得ようとしているの?
亨の舌打ちが聞こえて、手首が解放される。
俯いた顔を上げる事が出来なくてバタンと乱暴に閉まるドアの音で、ああ、亨は出て行ったんだと悟った。
「大丈夫?」
俯いたままの私を渋谷が覗き込む。
「…別に渋谷の役目じゃないし。心配してもらうの」
「真理…さん?」
伸びて来たその手を払いのけて叫んでた。
「私は一人でいいの。ほっといて!」
結局、皆同じ。
ただ少し仕事を真面目にしてくれるから便利なだけで、私自身の事なんて何とも思ってないんだよ。
『木元さん、頑張ってくれているから』
橘さんの笑顔が浮かんで無性に声が聞きたくなった。
事の次第を報告すると言う名目もあるし…連絡しよう。
「私、橘さんに連絡入れなきゃ。」
咄嗟に取り出したのは、仕事用ではなく自分のスマホ。踵を返した途端に渋谷に腕をつかまれて引き寄せられた。
「ちょ、ちょっと離してよ!」
「やだ。智ちゃんになんか連絡させない。」
……同じ事。
こうやって口説かれて、心が揺れた所で亨が渋谷に変わっただけの事じゃない。
これだけ嫌われている分際で社内恋愛なんて無理なんだよ。
「真理さん、もっと俺を頼ってよ…。」
そんな甘い言葉にはもう騙されない。
「私の事なんて何にも知らないくせに、口説いてんじゃない!」
力を目一杯込めて渋谷を振りほどいたら、気持ちが張り裂けそうに痛みを感じて視界が一気にぼやけた。
もう、嫌だ…。
「放っておいて、私の事は。
あんただって、私となんか居ない方がいい。私と居たらあんたの為にならない。」
ズキズキ痛む気持ちを押し殺して、なるべく冷静に勤めようとゆっくりと言葉を前に押し出した。
「あんたが望むなら、いくらでもあんたの陰で仕事する。その位、仕事が出来るって尊敬してるから。」
一瞬の沈黙の後、深い溜め息が渋谷から溢れた。
「俺はそんなの望んでないって言ってんじゃん。信じてくんないんだ。」
…そうであって欲しいって思ってる。
だけど、ごめん。
そんなに素直に渋谷の言葉を受け入れられるキャパは今の私には無い。
「…ごめん。」
渋谷の横を通り過ぎ、スマホを握りしめたまま廊下へと出て屋上へ向かった。
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唇が触れ合いそうになる瞬間に割って入るノック音。
「失礼しまーす。そこまでにしといたらどうですか?真田課長。」
雰囲気にそぐわない程、明るい声が会議室内に響いた。
渋谷…?
目線の先がぼやけてよく見えない。けれど、亨の身体が私から少し離れたのは確か。
「この人の心配すんのは俺の役目なんで。」
渋谷の声がすぐそこでしているはずなのに、遠く聞こえる。
「真田課長は3課の事、全力で考えて頂いて大丈夫ですよ?」
ねえ、渋谷。あんたは誰を…何を庇ってる?
私の手首を掴んでいる亨の手を更に渋谷が握る。
「…いい加減離せよ、この手を。」
私から亨を遠ざけて、何を得ようとしているの?
亨の舌打ちが聞こえて、手首が解放される。
俯いた顔を上げる事が出来なくてバタンと乱暴に閉まるドアの音で、ああ、亨は出て行ったんだと悟った。
「大丈夫?」
俯いたままの私を渋谷が覗き込む。
「…別に渋谷の役目じゃないし。心配してもらうの」
「真理…さん?」
伸びて来たその手を払いのけて叫んでた。
「私は一人でいいの。ほっといて!」
結局、皆同じ。
ただ少し仕事を真面目にしてくれるから便利なだけで、私自身の事なんて何とも思ってないんだよ。
『木元さん、頑張ってくれているから』
橘さんの笑顔が浮かんで無性に声が聞きたくなった。
事の次第を報告すると言う名目もあるし…連絡しよう。
「私、橘さんに連絡入れなきゃ。」
咄嗟に取り出したのは、仕事用ではなく自分のスマホ。踵を返した途端に渋谷に腕をつかまれて引き寄せられた。
「ちょ、ちょっと離してよ!」
「やだ。智ちゃんになんか連絡させない。」
……同じ事。
こうやって口説かれて、心が揺れた所で亨が渋谷に変わっただけの事じゃない。
これだけ嫌われている分際で社内恋愛なんて無理なんだよ。
「真理さん、もっと俺を頼ってよ…。」
そんな甘い言葉にはもう騙されない。
「私の事なんて何にも知らないくせに、口説いてんじゃない!」
力を目一杯込めて渋谷を振りほどいたら、気持ちが張り裂けそうに痛みを感じて視界が一気にぼやけた。
もう、嫌だ…。
「放っておいて、私の事は。
あんただって、私となんか居ない方がいい。私と居たらあんたの為にならない。」
ズキズキ痛む気持ちを押し殺して、なるべく冷静に勤めようとゆっくりと言葉を前に押し出した。
「あんたが望むなら、いくらでもあんたの陰で仕事する。その位、仕事が出来るって尊敬してるから。」
一瞬の沈黙の後、深い溜め息が渋谷から溢れた。
「俺はそんなの望んでないって言ってんじゃん。信じてくんないんだ。」
…そうであって欲しいって思ってる。
だけど、ごめん。
そんなに素直に渋谷の言葉を受け入れられるキャパは今の私には無い。
「…ごめん。」
渋谷の横を通り過ぎ、スマホを握りしめたまま廊下へと出て屋上へ向かった。
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