Monkey-puzzle


…私にとって。

頭を下げる事は何ら抵抗の無い事。
まして、課に迷惑をかけたのだから課長に頭を下げて謝罪するのは当たり前。
けれどきっと、このどよめきを聞く限り、私はそう言う事はしないイメージなんだろうな。特に、亨に対して私が頭を下げる光景なんて初めてだろうから。

課内のメンバー同様、亨も私の態度に困惑している。


「それは…まあ任せとけ。」


笑顔とは裏腹に、笑っていない目が少し泳いでいて何とかペースを立て直そうとしているのがよくわかる。
恐らく亨は、噂を何の弁解もせずに知らんぷりして今まで通り仕事をする私が更に嫌われ、皆と出来てしまう溝の橋渡しを自分がすると言う算段だったんだと思う。

けれど渋谷がそれを阻止して、私が頭を下げると言う形でそれに乗っかった。

渋谷に感謝だな、本当に。
これでコンペの事も言い易くなった。


「今年の社内コンペなんですが、私は三課のグループには参加しません。」


亨の表情に焦りが見えて、ああ、動揺しているなと思った。


「な、何言ってんだよ…去年同様、三課で一本出すって思ってるよ、俺は。」

「すみません、そこには入らず、私は私でやりたいなと。」

「だ、大体、お前と組む人なんて」

「それも分かっています。しかし、グループでと言う規定はありませんので。」

「だけど…「いいじゃありませんか、真田課長!」


1年後輩の藤木が割って入った。


「本人が入らないって言ってるんだし。」

「そうですよ!今年は渋谷もいるし!な?渋谷?」


同じく一年後輩の白石が渋谷に声をかけた。目線を集めた本人は変わらずタブレットに目を落としたまま。


「うん。今年は三課に混ぜて貰おっかなって思ってる。」


その返事に亨の表情が明らかに変化する。


「まあ、お前が望むならしょうがないよな。」


安堵の後に、嘲笑の表情を浮かべる。


「せいぜい、一人で頑張って?」


課長に昇進して自分は参加出来なくなったとはいえ、三課で出した企画が賞に入れば亨が注目されるのは確実。
そして、そのグループの中枢が私ではなくても、優秀な人なら誰でもいい。

寧ろ、渋谷なら自分の手を煩わせる事無く円滑に進めてくれる可能性が高い。
願ったり、叶ったりなんだろう。

亨の目論見をそれとなく予想しながら何も考えていない顔をして一礼をし、席に戻ると、隣で渋谷が眼鏡を外して「ん~!」と伸びをした。


「真理さん、鎌倉のスポーツブランドの店のワークショップの件で、過去の資料を見ながら確認しておきたい事があるんだけど。今、資料室行ける?」


優しいその眼差しが逆に有無を言わせない。


「…わかった。」


さっきの事も謝らなければと思っていたし丁度良かったと、また席を立った。

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