Monkey-puzzle
◇
みっちゃんと女子(とは言え無い)会をしてからの一週間、ワークショップの担当が外れたとは言え、新規で指名を受けたり担当しているイベントの打ち合わせが増えたりとスケジュール的にはかなり仕事が詰まった。
だけど、やっぱりデートするならきちんとしたい。曲がりなりにもヤツより数年長く生きているわけだし、デートの時位おしゃれを気にする女性としてちゃんとしないと。
どうしてもそこが譲れなくて、みっちゃんの忠告も聞かず、エステもヘアサロンも洋服やアクセサリー選びも全て予定に詰め込んだ。
「…おはよう、寝不足?」
「…。」
結果、マンションから迎えに来てくれた渋谷の車まで歩いただけで既にピンヒールの中で指先がジンジンしている。
「真理さん、今週忙しそうだったもんね。」
「…まあ。」
絶対そこじゃないけどね、原因は。
「何かリクエストあります?行く所。」
や、やっぱり聞かれた…
『相手に任せれば良いと思うけど』
こういう時だけ、みっちゃんの言葉を素直に聞く。私はやっぱり調子がいい人間だ。
「し、渋谷が行きたい所でいいよ。」
緊張をひた隠しにしてした返事に、口元隠して笑う渋谷。
「本当に俺の行きたい所でいいの?」
「うん…。」
「じゃあ、ホテル。」
は、はい?!
「ちょっ、ちょっと!何でいきなりそうなるのよ!」
「あ、いきなりじゃなきゃいいんだ」
「ち、違うってば!」
「だって、真理さん可愛い格好してるから」
……絶対慣れてる。
会ってすぐに臆する事無く、サラリと褒めてのける渋谷を少し睨みつけた。
苦笑いの店員さんに付き合って貰って閉店間際まで悩みに悩んで選んだミモレ丈のワンピース。普段のカチッとしたスーツとは違う印象にしたくて、腰からフワリとフレアが広がるものにしたんだけど…こうもあっさり『頑張って考えた』のを見破られると素直に喜べない。
けれど小首を傾げて笑う優しい眼差しにどう言う訳だか勝てなくて、頬に熱を持ったまま、口をつぐんで俯いた。
渋谷の身体が近づいて来て、抱き寄せられる。
耳元に眼鏡のフレームがぶつかってカチリと少し音を立てた。
「ワンピース、似合ってる。」
甘い吐息まじりの掠れ声に身体も熱を持つ。
ああ…本当に私って調子がいい。
この前はあんなにキツく拒否しておいて…今は渋谷に抱きつきたいって思ってる。
耳たぶに微かに触れる渋谷の唇に意識が集中してしまう。
唇同士が触れ合う感触が頭を過って身体が更に熱を帯びた。
早くなる鼓動を抑えようと足の横に降ろしている手をギュッと結んだら、少しだけ渋谷の身体が動いた。
「すっげぇ、脱がしたい。」
……雰囲気、台無し。
こんなエロガッパの前で緊張してた自分が馬鹿だったと、渋谷の頬を思い切り横に引っ張った。
「イデデ…。」
「今日は私を癒してくれるんでしょ?よろしくね、渋谷!」
「違うって…俺が癒されるって話でしょーよ…。」
身体を起こした渋谷に右手をぎゅっと握られる。
「まあ…じゃあ、とりあえず適当にどっか行きます?」
「…ホテル以外で」
「はいはい。」
楽しそうに笑う渋谷。
もしかして…私が緊張しているのバレてた?
だからわざとそう言ったとか?
渋谷ならあり得る話かも。
握られている手に力を入れたらまた顔が近づいて来る。
そのまま触れた唇同士。渋谷の黒縁眼鏡が頬骨に少し当たった。
「…やっぱホテル。」
「行かない。」
「『いきなり』はでしょ?」
久しぶりだな…こんなくすぐったい感覚。
今の会社に入って、仕事に必死で。
気が付いたらなし崩しに亨と関係を持ってて…会うのはいつも仕事帰りのホテルやレストラン。
ずっと、忘れていたかも。
握られた手の暖かさとか、心地よく軽快なリズムを保ち続ける鼓動とか。
みっちゃんと女子(とは言え無い)会をしてからの一週間、ワークショップの担当が外れたとは言え、新規で指名を受けたり担当しているイベントの打ち合わせが増えたりとスケジュール的にはかなり仕事が詰まった。
だけど、やっぱりデートするならきちんとしたい。曲がりなりにもヤツより数年長く生きているわけだし、デートの時位おしゃれを気にする女性としてちゃんとしないと。
どうしてもそこが譲れなくて、みっちゃんの忠告も聞かず、エステもヘアサロンも洋服やアクセサリー選びも全て予定に詰め込んだ。
「…おはよう、寝不足?」
「…。」
結果、マンションから迎えに来てくれた渋谷の車まで歩いただけで既にピンヒールの中で指先がジンジンしている。
「真理さん、今週忙しそうだったもんね。」
「…まあ。」
絶対そこじゃないけどね、原因は。
「何かリクエストあります?行く所。」
や、やっぱり聞かれた…
『相手に任せれば良いと思うけど』
こういう時だけ、みっちゃんの言葉を素直に聞く。私はやっぱり調子がいい人間だ。
「し、渋谷が行きたい所でいいよ。」
緊張をひた隠しにしてした返事に、口元隠して笑う渋谷。
「本当に俺の行きたい所でいいの?」
「うん…。」
「じゃあ、ホテル。」
は、はい?!
「ちょっ、ちょっと!何でいきなりそうなるのよ!」
「あ、いきなりじゃなきゃいいんだ」
「ち、違うってば!」
「だって、真理さん可愛い格好してるから」
……絶対慣れてる。
会ってすぐに臆する事無く、サラリと褒めてのける渋谷を少し睨みつけた。
苦笑いの店員さんに付き合って貰って閉店間際まで悩みに悩んで選んだミモレ丈のワンピース。普段のカチッとしたスーツとは違う印象にしたくて、腰からフワリとフレアが広がるものにしたんだけど…こうもあっさり『頑張って考えた』のを見破られると素直に喜べない。
けれど小首を傾げて笑う優しい眼差しにどう言う訳だか勝てなくて、頬に熱を持ったまま、口をつぐんで俯いた。
渋谷の身体が近づいて来て、抱き寄せられる。
耳元に眼鏡のフレームがぶつかってカチリと少し音を立てた。
「ワンピース、似合ってる。」
甘い吐息まじりの掠れ声に身体も熱を持つ。
ああ…本当に私って調子がいい。
この前はあんなにキツく拒否しておいて…今は渋谷に抱きつきたいって思ってる。
耳たぶに微かに触れる渋谷の唇に意識が集中してしまう。
唇同士が触れ合う感触が頭を過って身体が更に熱を帯びた。
早くなる鼓動を抑えようと足の横に降ろしている手をギュッと結んだら、少しだけ渋谷の身体が動いた。
「すっげぇ、脱がしたい。」
……雰囲気、台無し。
こんなエロガッパの前で緊張してた自分が馬鹿だったと、渋谷の頬を思い切り横に引っ張った。
「イデデ…。」
「今日は私を癒してくれるんでしょ?よろしくね、渋谷!」
「違うって…俺が癒されるって話でしょーよ…。」
身体を起こした渋谷に右手をぎゅっと握られる。
「まあ…じゃあ、とりあえず適当にどっか行きます?」
「…ホテル以外で」
「はいはい。」
楽しそうに笑う渋谷。
もしかして…私が緊張しているのバレてた?
だからわざとそう言ったとか?
渋谷ならあり得る話かも。
握られている手に力を入れたらまた顔が近づいて来る。
そのまま触れた唇同士。渋谷の黒縁眼鏡が頬骨に少し当たった。
「…やっぱホテル。」
「行かない。」
「『いきなり』はでしょ?」
久しぶりだな…こんなくすぐったい感覚。
今の会社に入って、仕事に必死で。
気が付いたらなし崩しに亨と関係を持ってて…会うのはいつも仕事帰りのホテルやレストラン。
ずっと、忘れていたかも。
握られた手の暖かさとか、心地よく軽快なリズムを保ち続ける鼓動とか。