Monkey-puzzle
一歩引いて、様子を見てた高橋の肩をポンッと叩いた。
「高橋、ここは頼んだよ?」
「え?!お、俺っすか?!」
「あなた以外にここを仕切れる人はいない。」
私の言葉に、亨と高橋は目を丸くする。
渋谷は嬉しそうにニヤリと笑った。
そんな渋谷を一瞥してから高橋にまた向き直った。
『そう思ってんだったら、本人に直接言ってやりゃいいじゃない。』
…昔渋谷に言われた事。実践させて頂きます。
田所さんの様に、人間関係をスムーズに出来る様になるかは定かではないけれど、私だって少しずつ改善する、自分を。
「高橋はさ、こう言う緊急事態を柔軟に見て、次やるべき事を冷静に判断出来る力に長けてるって思う。
交渉は私達が全力でやるから、Goが出た瞬間に全てが動かせる様にしておいて。」
「で、でも。」
「大丈夫。高橋が思った様に動けば、それが正解だって思うから。その位、私も渋谷も、真田課長もあなたを信頼している。」
「…っ」
目の前で、高橋の顔が少し紅潮して瞳が潤った。
ど、どうしよう…私、泣かせた?
強く言い過ぎたのかな…
初めての事で、加減が分からなかったから、思ったままを言ってしまった事に多少の後悔。やっぱりこういうの、私は下手…、と思っていたら、亨が高橋の頭をぐしゃっと撫で始めた。
「おい、高橋!泣いてる場合かよ。その涙は、ワークショップ終了後の美味い酒の為にとっとけー。」
わざとおどけたその口ぶりに笑顔を見せて涙を一度だけ拭う高橋。
「は、はい!頑張ります!では、橘さん、三沢さん、よろしくお願いします。まずは…」
良かった…。
安堵の溜め息を付いてから、「行きましょう」と歩き出した田所さんの背中を追う。
隣に並んで歩き出した渋谷の手が頭に乗った。
「やるじゃん。」
「…でも泣かせた。」
「いいんじゃない?あれだけやる気が出たんだし。たまに褒められるって嬉しいもんだよ?」
…と言う事は、あれは嬉し泣き?
少しだけ振り返って見た高橋は、いつになく真剣で、今まで見た事が無い位に引き締まっている様に見えた。
…あれだけやる気をみなぎらせているんだし。うれし泣きであったと信じよう。
また前を向くと、総務課へ向かって足を速めた。
◇
向かった先の総務部の入り口には、上司の相澤さんが立っていた。
「田所!大丈夫か!?」
「は、はい。あの、新しい案を頂きまして、動こうと思っています。」
「そうかすまん、急な客が来てしまった為に。負担を…。」
「そんな事はありません。元々は私の確認が甘かった事が原因ですので。」
少し頭を下げ気味に受け答えする田所さんに、うーんと相澤さんが腕組みをして怪訝そうにする。
「それだけどな。申請の時は俺も課長印を押す為に目を通したはずだろ?
その時、会議用のパイプ椅子と長机では無かったはずなんだよ。
まあ、総務が預かっている申請書類を見れば一目瞭然だろうけどな。」
つまりは田所さんのミスではなく、総務の方の手違いかもしれないと。
そうなると、交渉はさらにし易くなる。
「とにかく、時間がない、お前の言う、新しい案で総務に掛け合おう。私も話を聞く為に同行する。」
「あ、あの事前に新しい案の内容を話します。」
「時間がないと言ってるだろ?お前がそれでいけると思ってる案だ。大丈夫。足りない所はその場でフォローする。」
二人のやり取りに、少し唇を噛み締めた。
田所さん、ここでもきちんと信頼関係を築けている。
「勿体ないね、あの人」と隣に居た渋谷が小声で呟いた。
“不意に生まれる歪んだ感情”
それは誰もが持つもので。
だけど、抑えられなくて出してしまうと、一瞬にして、その人が今まで積み上げて来た物を崩してしまうかもしれない。
“たった一回の嫌がらせメール”が田所さんを崖の縁に立たせてるんだ、今。
それは亨も同じ。
彼は、絶対に三課の人達には必要な存在だから。
上層部や他の課に臆する事無くのびのびと私達が仕事出来ているのは彼が盾になって、やんわり受け止めてくれているから。
三課の色を絶やさずにすんでいるのは亨の人当たりに寄るものにほかならない。
そんな二人を歪ませてしまったのは私…。
皆が総務に入って行く背中を見ながら、少しだけ俯いた。
不意に渋谷の手がまた頭をポンポンと撫でる。
「…行こ。」
口角をキュッと上がる、そのいつもの余裕の笑みに軽く頷いた。
そうだよね…迷いは後に回さないと。
とにかく今は、ワークショップの事を考えなくては。
「高橋、ここは頼んだよ?」
「え?!お、俺っすか?!」
「あなた以外にここを仕切れる人はいない。」
私の言葉に、亨と高橋は目を丸くする。
渋谷は嬉しそうにニヤリと笑った。
そんな渋谷を一瞥してから高橋にまた向き直った。
『そう思ってんだったら、本人に直接言ってやりゃいいじゃない。』
…昔渋谷に言われた事。実践させて頂きます。
田所さんの様に、人間関係をスムーズに出来る様になるかは定かではないけれど、私だって少しずつ改善する、自分を。
「高橋はさ、こう言う緊急事態を柔軟に見て、次やるべき事を冷静に判断出来る力に長けてるって思う。
交渉は私達が全力でやるから、Goが出た瞬間に全てが動かせる様にしておいて。」
「で、でも。」
「大丈夫。高橋が思った様に動けば、それが正解だって思うから。その位、私も渋谷も、真田課長もあなたを信頼している。」
「…っ」
目の前で、高橋の顔が少し紅潮して瞳が潤った。
ど、どうしよう…私、泣かせた?
強く言い過ぎたのかな…
初めての事で、加減が分からなかったから、思ったままを言ってしまった事に多少の後悔。やっぱりこういうの、私は下手…、と思っていたら、亨が高橋の頭をぐしゃっと撫で始めた。
「おい、高橋!泣いてる場合かよ。その涙は、ワークショップ終了後の美味い酒の為にとっとけー。」
わざとおどけたその口ぶりに笑顔を見せて涙を一度だけ拭う高橋。
「は、はい!頑張ります!では、橘さん、三沢さん、よろしくお願いします。まずは…」
良かった…。
安堵の溜め息を付いてから、「行きましょう」と歩き出した田所さんの背中を追う。
隣に並んで歩き出した渋谷の手が頭に乗った。
「やるじゃん。」
「…でも泣かせた。」
「いいんじゃない?あれだけやる気が出たんだし。たまに褒められるって嬉しいもんだよ?」
…と言う事は、あれは嬉し泣き?
少しだけ振り返って見た高橋は、いつになく真剣で、今まで見た事が無い位に引き締まっている様に見えた。
…あれだけやる気をみなぎらせているんだし。うれし泣きであったと信じよう。
また前を向くと、総務課へ向かって足を速めた。
◇
向かった先の総務部の入り口には、上司の相澤さんが立っていた。
「田所!大丈夫か!?」
「は、はい。あの、新しい案を頂きまして、動こうと思っています。」
「そうかすまん、急な客が来てしまった為に。負担を…。」
「そんな事はありません。元々は私の確認が甘かった事が原因ですので。」
少し頭を下げ気味に受け答えする田所さんに、うーんと相澤さんが腕組みをして怪訝そうにする。
「それだけどな。申請の時は俺も課長印を押す為に目を通したはずだろ?
その時、会議用のパイプ椅子と長机では無かったはずなんだよ。
まあ、総務が預かっている申請書類を見れば一目瞭然だろうけどな。」
つまりは田所さんのミスではなく、総務の方の手違いかもしれないと。
そうなると、交渉はさらにし易くなる。
「とにかく、時間がない、お前の言う、新しい案で総務に掛け合おう。私も話を聞く為に同行する。」
「あ、あの事前に新しい案の内容を話します。」
「時間がないと言ってるだろ?お前がそれでいけると思ってる案だ。大丈夫。足りない所はその場でフォローする。」
二人のやり取りに、少し唇を噛み締めた。
田所さん、ここでもきちんと信頼関係を築けている。
「勿体ないね、あの人」と隣に居た渋谷が小声で呟いた。
“不意に生まれる歪んだ感情”
それは誰もが持つもので。
だけど、抑えられなくて出してしまうと、一瞬にして、その人が今まで積み上げて来た物を崩してしまうかもしれない。
“たった一回の嫌がらせメール”が田所さんを崖の縁に立たせてるんだ、今。
それは亨も同じ。
彼は、絶対に三課の人達には必要な存在だから。
上層部や他の課に臆する事無くのびのびと私達が仕事出来ているのは彼が盾になって、やんわり受け止めてくれているから。
三課の色を絶やさずにすんでいるのは亨の人当たりに寄るものにほかならない。
そんな二人を歪ませてしまったのは私…。
皆が総務に入って行く背中を見ながら、少しだけ俯いた。
不意に渋谷の手がまた頭をポンポンと撫でる。
「…行こ。」
口角をキュッと上がる、そのいつもの余裕の笑みに軽く頷いた。
そうだよね…迷いは後に回さないと。
とにかく今は、ワークショップの事を考えなくては。