Monkey-puzzle
◇◇
今まで全く無関心を貫いていた真理さんがわざわざ波風立てる様に割って入って来た時点で、目論見は読めた。
…真田さんに頼まれたよね、これ。
俺や高橋がどうしても、自分と同じレベルまで皆のモチベーションを上げきれないのを、真田さんは多分感じてたんだって思う。
だけど自分は口が出せないから、真理さんを巻き込んだ。
辞表を出したのは知ってるから、自分の保身じゃなく、俺達の為だと言うのはわかってるよ?
三課に合流して日が浅いとはいえ、明らかに俺は力不足で、真田さんや真理さんの足下にも及ばない現実に悔しい思いを抱いていたのは事実だし。
わかっちゃいるけどさ…
震えを抑えながら懸命に“嫌われ者”を演じる真理さんを目の当たりにして、この上なく腹が立った。
真理さんを巻き込んだ真田さんにも…そして、俺に何の話しもせずに真田さんに従った真理さんにも。
高橋が興奮してる皆をなだめてる隙に抜け出した三課。
あの人がこういう時に行く所なんて一つしかないと向かった先の書庫整理部の一番奥。
「……。」
…ほら、やっぱり居た。
壁におでこをつけて項垂れている姿に、憤慨していたはずの気持ちは一気に押しやられて、頬が緩む。反射的にその身体を包み込んだ自分に、どんだけこの人に弱いんだろうと呆れた。
少し乱暴に身体を自分の方に向かせたら、おでこが赤いのは期待通りだったけど、口のへの字と涙が溢れんばかりな瞳と言うオマケ付き。あまりにも可愛くて、スマホを取り出した瞬間に伸びてきた真理さんの手を捉えてそのまま引き寄せて唇を塞いだ。
数週間ぶりの真理さんの柔らかいそれは甘さが増した気がする。
そのまま暫く噛み付く様に夢中になって、息苦しさを覚えたらしい真理さんが俺のシャツの袖を引っ張るまで、趣旨を完全に忘れてた。
おでこ同士をこつりとつけた先の真理さんは、呼吸を整えようと瞼を震わせる。離れてしまいそうな身体を腰から抱き寄せて密着させた。
「し、渋谷、怒って…ないの?」
「何?俺がヘソ曲げて口もきかなくなるとでも思った?まぁ実際、かなり頭には来てる。あのくそ上司、とっととやめて欲しい。」
「く、くそ上司って…」
「頼まれたんでしょ?真田さんに。」
押し黙る真理さんの唇がまた尖る。
本人は至って真剣だから申し訳ないけど、俺の頭の中はその口をどうやって食ってやろうかと模索する事がほぼほぼ占めてるわ、今。
そのチャンスはすぐに訪れた。
口を尖らせたまま、困り顔で真理さんがぽつりと呟いた一言。
「…亨の言う事聞いたってわけじゃないよ。」
「…『亨』」
「そ、そこ引っかからないでよ。」
「ひっかかるわ。凄いムカつく。」
待ってましたとばかりに、頭を抑えて噛み付く様にまたその口を塞ぐ。
「ん…」
吐息を漏らした真理さんがまた俺のシャツを少し引っ張った。
「…少し聞いただけだけど、本当に三課の企画は素晴らしいって思ったから。
勿体ないでしょ?今のままだと。
だから後悔してはいない、自分のした事。
きっと、普段から『嫌いだ』と思われている私が言えば、三課の皆は否応無しにモチベーションが上がるはずだかから。だけど渋谷は嫌いだっただろうなって。そう思ったらひどく落ち込んじゃって。」
特にひっかかりもなく、ただ言い訳を並べる様に同じテンションで言う真理さんのトーンに、一瞬聞き逃しそうになった事。
「あのさ、確認して良い?真理さんが今、ここでヘコんでるのは何で?」
「だ、だからさ…内情をよく知らない私が横やりを入れて渋谷が気分を害しただろうなと…。」
尻窄みに言葉を濁らせ、俺を不安げに見上げる真理さんに思わず笑いが込み上げて慌てて堪えた。
今まで何よりも『企画の為』『仕事の為』と周りが見えなくなっていた真理さんが、“俺が機嫌が悪くなるのではと考え落ち込んでいる”
信じられない現実に、ふとバーテン大ちゃんと智ちゃんの言葉が頭を過った。
『真理ちゃんて、モンキーパズルみたい!』
『まあでも、恭介なら大丈夫じゃない?』
『だよね!恭介って猿って言うより…ボーダーコリー?』
…猿に上れない木も、もしかしたらボーダーコリーは登れるのかも。
堪えてもわき上がって来る嬉しさに、思わず固く閉じ込めた真理さんの身体。
「あー…もう。」
色々言うと浮かれているのがバレそうでとりあえずそれだけ呟いてみたら、恐る恐る背中に手が回って来た。
今まで全く無関心を貫いていた真理さんがわざわざ波風立てる様に割って入って来た時点で、目論見は読めた。
…真田さんに頼まれたよね、これ。
俺や高橋がどうしても、自分と同じレベルまで皆のモチベーションを上げきれないのを、真田さんは多分感じてたんだって思う。
だけど自分は口が出せないから、真理さんを巻き込んだ。
辞表を出したのは知ってるから、自分の保身じゃなく、俺達の為だと言うのはわかってるよ?
三課に合流して日が浅いとはいえ、明らかに俺は力不足で、真田さんや真理さんの足下にも及ばない現実に悔しい思いを抱いていたのは事実だし。
わかっちゃいるけどさ…
震えを抑えながら懸命に“嫌われ者”を演じる真理さんを目の当たりにして、この上なく腹が立った。
真理さんを巻き込んだ真田さんにも…そして、俺に何の話しもせずに真田さんに従った真理さんにも。
高橋が興奮してる皆をなだめてる隙に抜け出した三課。
あの人がこういう時に行く所なんて一つしかないと向かった先の書庫整理部の一番奥。
「……。」
…ほら、やっぱり居た。
壁におでこをつけて項垂れている姿に、憤慨していたはずの気持ちは一気に押しやられて、頬が緩む。反射的にその身体を包み込んだ自分に、どんだけこの人に弱いんだろうと呆れた。
少し乱暴に身体を自分の方に向かせたら、おでこが赤いのは期待通りだったけど、口のへの字と涙が溢れんばかりな瞳と言うオマケ付き。あまりにも可愛くて、スマホを取り出した瞬間に伸びてきた真理さんの手を捉えてそのまま引き寄せて唇を塞いだ。
数週間ぶりの真理さんの柔らかいそれは甘さが増した気がする。
そのまま暫く噛み付く様に夢中になって、息苦しさを覚えたらしい真理さんが俺のシャツの袖を引っ張るまで、趣旨を完全に忘れてた。
おでこ同士をこつりとつけた先の真理さんは、呼吸を整えようと瞼を震わせる。離れてしまいそうな身体を腰から抱き寄せて密着させた。
「し、渋谷、怒って…ないの?」
「何?俺がヘソ曲げて口もきかなくなるとでも思った?まぁ実際、かなり頭には来てる。あのくそ上司、とっととやめて欲しい。」
「く、くそ上司って…」
「頼まれたんでしょ?真田さんに。」
押し黙る真理さんの唇がまた尖る。
本人は至って真剣だから申し訳ないけど、俺の頭の中はその口をどうやって食ってやろうかと模索する事がほぼほぼ占めてるわ、今。
そのチャンスはすぐに訪れた。
口を尖らせたまま、困り顔で真理さんがぽつりと呟いた一言。
「…亨の言う事聞いたってわけじゃないよ。」
「…『亨』」
「そ、そこ引っかからないでよ。」
「ひっかかるわ。凄いムカつく。」
待ってましたとばかりに、頭を抑えて噛み付く様にまたその口を塞ぐ。
「ん…」
吐息を漏らした真理さんがまた俺のシャツを少し引っ張った。
「…少し聞いただけだけど、本当に三課の企画は素晴らしいって思ったから。
勿体ないでしょ?今のままだと。
だから後悔してはいない、自分のした事。
きっと、普段から『嫌いだ』と思われている私が言えば、三課の皆は否応無しにモチベーションが上がるはずだかから。だけど渋谷は嫌いだっただろうなって。そう思ったらひどく落ち込んじゃって。」
特にひっかかりもなく、ただ言い訳を並べる様に同じテンションで言う真理さんのトーンに、一瞬聞き逃しそうになった事。
「あのさ、確認して良い?真理さんが今、ここでヘコんでるのは何で?」
「だ、だからさ…内情をよく知らない私が横やりを入れて渋谷が気分を害しただろうなと…。」
尻窄みに言葉を濁らせ、俺を不安げに見上げる真理さんに思わず笑いが込み上げて慌てて堪えた。
今まで何よりも『企画の為』『仕事の為』と周りが見えなくなっていた真理さんが、“俺が機嫌が悪くなるのではと考え落ち込んでいる”
信じられない現実に、ふとバーテン大ちゃんと智ちゃんの言葉が頭を過った。
『真理ちゃんて、モンキーパズルみたい!』
『まあでも、恭介なら大丈夫じゃない?』
『だよね!恭介って猿って言うより…ボーダーコリー?』
…猿に上れない木も、もしかしたらボーダーコリーは登れるのかも。
堪えてもわき上がって来る嬉しさに、思わず固く閉じ込めた真理さんの身体。
「あー…もう。」
色々言うと浮かれているのがバレそうでとりあえずそれだけ呟いてみたら、恐る恐る背中に手が回って来た。