Monkey-puzzle
「…渋谷、本当にごめん。嫌、だったよね。」

浮かれ過ぎてその辺どうでも良くなっている俺の胸中なんてつゆ知らず、心配そうに俺の顔色を伺っている真理さんに、一応優しい笑顔を向ける。

この話、とっとと終わらせて残りの昼休みを堪能して…コンペ終了なんて待たずに、あわよくば、お持ち帰り。


そんな下心まで抱いた俺に天罰が下ったんだと思う。


「でもほら、俺は三課の連中の事、まだあまり知らないし、どうしたもんかと悩んでた所もあったから。これでモチベーションが上がるなら。」

「逆に感謝してるかも」なんて、真理さんが喜びそうな模範解答を述べたらその目がパッと輝きを取り戻した。

「じゃ、じゃあ…私、三課一人一人の特徴とか、得意な事とか用紙にまとめてくるよ!それぞれが得意な事をやればあの企画、絶対優勝できると思うから!用紙は渋谷と高橋に内緒で渡せばさ…」

…これ、判断を誤ったんじゃ。
そう思っても後の祭り。

興奮気味に、真剣な眼差しを向ける真理さんを止める術なんて俺には身に付いてなくて。

「それはやり過ぎなんじゃ…」

「何言ってんの!その位しないと勝てないって!企画実現の為には利用出来るものは利用しなきゃ!」


今日もモンキーパズルを攻略出来なかったボーダーコリーはもはや『待て』を忠実に守るしか無いと悟った。


チラリと見えた腕時計の針が五分後に昼休みが明ける数字を指していた。
諦めの溜め息を吐き出して、もう一度自分の腕に真理さんを閉じ込めた。


「…真理さん、俺の事好き?」
「え?!」
「ほら、早く、言ってよ。どうなの?」
「す、好き…。」
「え?何?聞こえない。」
「す、好きだって…。」
「誰を?」
「渋谷…嫌い。」


まあ…仕方が無いからのっかってあげるよ、あなたの行き過ぎたお節介に。
でもね、どんなに聡明なボーダーコリーだって、噛み付く時は噛み付くから。

心の中でそんな苦し紛れのセリフを思う俺に後日真理さんから渡された、三課の皆それぞれの特徴と得意、不得意が書かれた用紙。
手書きで丁寧に書かれたそれは、本当は真理さんが一人一人を愛情深く見ていたんだと手に取る様に伝わってきて、本当に、不器用な人なんだと改めて思った。

でもまあ、だから余計に惚れ直したって言うのは、内緒にしとく、悔しいから。
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