Monkey-puzzle




まだ少し痛がっている渋谷をおいて、先にテーブルに戻ると橘さんがタブレットで何かを読みながら待っていた。

「お待たせして申し訳ございません。」
「いや、俺も少し調べものがあったので大丈夫。」

唇の片端をあげて笑う橘さんに私も笑顔。

橘さんは紳士的なせいか、空気が落ち着いていて話しやすいといつも思う。

話題も豊富で色々な知識を与えてくれるから、橘さんとの打ち合わせを実は結構、楽しみにしてたりするんだよね…。


椅子に座ったタイミングでちょうどデザートが運ばれて来た。


「グッドタイミング。」
「ですね。」

笑うタイミングも同じでどこか心地いい。
渋谷と話した事でどこかバタついていた気持が落ち着いて、深い香りのするコーヒーを味わう事が出来た。

このお店、入って来た第一印象も凄く良かったけれど料理もとても美味しかったし、このコーヒーも食後のお腹が満たされている時でも甘いものが欲しくなる様な味わいで。料理やウェイターの態度までお客様に満足して貰える様、全てが計算されている。

こういう所が行きつけなんて、橘さんはさすがだな…。


「木元さん。少し下世話な話をしていい?」

甘さとアルコールの加減が絶妙なティラミスに舌鼓をしていたら、橘さんが珍しくテーブルに両肘をついて少しリラックスした雰囲気になる。


「え?はい…」
「恭介とはやっぱ付き合ってんの?」
「っ!ま、まさか!や、やめてください…よ」

思わず持っていたフォークを握りしめた。

ほら、言わんこっちゃない。橘さんに誤解を招いた。


「だ、大体、会ったのも話したのも渋谷が課を移動して来た昨日が初めてで。あり得ません。」


人は弁解しなければと思うとこんなに頑張れるのかと言う位スムーズに言葉が出て来る。
おかげで橘さんは「そっか」と納得してくれたみたいで、テーブルの肘を降ろして、コーヒーを飲み始めた。


「じゃあ、連絡先の交換しても良い?仕事じゃなくて、プライベートの方。
仕事を抜きにして飯でも食いに行かない?」


動揺している私とは真逆で橘さんは全くいつも通りの落ち着いた雰囲気。同じ歳だと前に聞いた事があるけれど、自分よりもだいぶ大人に感じる。


「クライアントとそう言うのはマズい?だったら、ワークショップ終わるまで待つけど。出来ればすぐ行きたいかも。俺はね。」


大人で…少し強引な所のある、男の人。


「木元さんと話してると楽しいんだよね。だから、こう…気楽に構えて貰って、“友達と飯”みたいな感じでね?って俺今、凄い必死だけど大丈夫?」


そしてユーモアがあって相手に気遣いの出来る人。


…大丈夫、かな。
今までも仕事を終えた後だけど、交換した事もあるし。
それによって会社に迷惑をかける訳じゃないし…私だって橘さんと話すのは楽しいから。


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