その花が永遠に咲き続けますように
「じゃああなたは、咲ちゃんと永君に何を望んでいるのよ?」

やや呆れたような表情と口調でキリシマさんがレイに問う。他のメンバーは日本語がわからない為、首を傾げながらレイを見つめているけれど。


レイは、私のことをすっと見下ろしながら、私が背負っているものを指差す。
そして。



「それ、ギターだろ? 弾いてみろよ。そして歌え。聴いてやる」



ーーえ?




「あ、あの、弾いて歌うって……ここでですか?」

「そうだ。どんな腕前か披露してみろ。そしたら家に帰してやる」


一体どういうこと。そんな、身代金を要求する誘拐犯みたいなことを突然言われても困ってしまう。


それに、腕前を披露って言われても……永君はともかく私は、この間練習を始めたばかりで、レイが満足するような演奏は百パーセント出来ない。



「あのね、あなたが納得するような演奏を素人の高校生に求めるのが間違ってるわよ」

私の気持ちを代弁するかのようにキリシマさんがレイにそう言ってくれるけれど、


「別に、上手い演奏を期待してる訳じゃない。才能を見てみたいだけだ。……面白いことしてくれそうな目をしてたからな。特に、女の方」


才、能? 面白いこと?
私はレイに何を期待されているというんだ。


……って、期待なんかされている訳ない。多分、面白がられているだけ。ただの暇潰しかもしれない。


「あの、申し訳ないですけど演奏は……」

「出来ないのか? こんなミジンコばりに度胸のない女がメンバーにいるんじゃ、お前のいるバンドも全員大した奴じゃないな」

「!」

そう言われた瞬間。憧れのレイに対して無性に腹が立った。
私には確かに度胸なんてない。間違いなく気は弱い方だし、傷付きやすい人間でもあると思う。
でも今は、傷付くよりも怒りが勝った。私のことはいくらけなされても構わない。だけどseedsのメンバーのことはそんな風に言わないでほしかった。


だから。



「やります! 私」


私がそう答えた瞬間、永君も藤先生もキリシマさんも、皆驚いた顔で私を見たのがわかった。
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