その花が永遠に咲き続けますように
「いやー、流石に驚きの展開だったよなあ」
スタジオを出て、駐車場に向かった藤先生を待ちながら、スタジオ前で永君が言った。
「ほんとにそうだよね……。rowdyに会えたことだけでも驚きなのに、まさか目の前で演奏させられるとは……」
更にレイは予想以上に口悪いし、しかも日本語喋ってるし……驚きの連続。
だけど永君はさっきからずっと笑顔を絶やさない。
そして、
「うん。だけど楽しかったよ」
と言うのだった。
……その時、私は少しだけ胸に引っ掛かっていたことを彼に聞いてみることにした。
それは、レイに前座の話を持ち掛けられた時、一瞬感じたこと。
「ねえ、永君」
「ん?」
「もしだけどさ、本当に前座に立てることになったらどう思う?」
私の質問に、永君は何度かパチパチと瞬きをした後、やっぱりにこっと笑った。
「そうだなぁ……。俺さ、思い出なんか作りたくないと思って高校へも入学しなかったんだけど、咲や皆とバンドやってる今はとっても楽しいんだ。今は寧ろ、思い出をたくさん作りたいと思ってる。だからさ、有り得ない話ではあるけど、rowdyの前座なんて出来たら最高の思い出だよな? どうせ年内でギター弾けなくなるんだから、最後にそんな凄いステージで弾いてみたいとは思うよ」
本当に有り得ない話だけどね、と永君は言うけれど。
私の胸の引っ掛かりが消えた。
思い出を作るという行為を、彼がどう捉えているかがちゃんとわかったから。
ーーだから。
「……ごめん! 忘れ物したからちょっと待ってて!」
「咲⁉︎」
私は駆け出し、スタジオの中へと戻った。