その花が永遠に咲き続けますように
俯く日奈の表情は見えないけれど、怒っている様子も泣いている様子もない。

だけど、


「……あんたは、凄いね」


ぽつり、とそう呟かれたのは聞こえた。


その言葉を聞いたら、日奈も日奈なりに今まで色々悩んでいたこともあったのかもしれないーーもしかしたら日奈も、自分を変えたいと思っているのかもしれない。



日奈は私と目を合わせないまま、家の問題へと向かっていく。



そんな日奈のことを、私は後ろから呼び止めた。
日奈は立ち止まり、顔だけ私に向ける。



「あのね、私今、高校でバンドやってるんだ。それで、今度rowdyっていうロックバンドの前座として武道館ライブのステージに立つの」


私がそう言うと、日奈もさすがに驚いた顔をして、思わずといった感じでこちらに振り向く。


「ウソ、前座の高校生って、咲のことなの? 信じられない……」

「うん、実はそうなんだ。それで、良かったらこれ……」

そう言いながら、私はライブのチケットを日奈に渡した。キリシマさんから『ご家族とか、仲の良い友達とかに渡してね』と言われて特別にもらったチケットだ。

私達は友達ではないけれど……ライブには来てほしいと思った。今の私を、日奈に見てほしいと思った。


日奈は戸惑った様子で私からチケットを受け取る。
すると。


「……私、咲のことは最初から見下してたし、仲良くなろうなんて思ってなかったよ。でもさ……」


今にも泣き出してしまうんじゃないかと思うくらい、弱々しい日奈の声。日奈のこんな声、初めて聞いた。


「……いつだったか、学校からの帰り道に急に夕立にやられてさ、雨宿りを兼ねて一緒にカラオケ行ったことあったよね。咲は恥ずかしがって全然歌わなくて、私ばっかり歌ってたけど、一回だけ一緒に同じ曲歌ったの覚えてる? あの時に咲のこと、凄い歌上手いなって思ったよ……」
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