その花が永遠に咲き続けますように
和やかで温かい空気。振り向くと、さっきまで緊張していた三人も笑顔になっている。

永君の顔も見れたし、今なら最高の演奏が出来そうだ。


そう思った、その時だった。



「入るぞ」



ガチャッとドアを開けながらそう言って部屋に入ってきたのはレイだった。



「レイ! 楽屋に入る時はノックするのが常識でしょ⁉︎」

「あん? いいだろ別に。ガキが着替え中だったとしても俺は気にしねーよ」


キリシマさんとレイのこんなやり取りも、もう何度も見たから思わず笑ってしまうほど。
この光景を見るのも、直接見るのはきっと今日で最後だと思うと少し寂しいけれど。


ちなみに洋さんは、近距離でレイを見て、激しく動揺している。洋さんも、今やすっかりrowdyのファンらしい。



「調子はどうだ」


レイが私にそう尋ねる。私が「好調です」と答えると、彼は満足そうに笑った。


激励しに来てくれたのだと思った。練習中は、洋さんとは比べ物にならないくらいにいつも厳しかった彼だけれど、今だけは優しいことを言いに来てくれたのだと、私だけでなくここにいる誰もがそう思っただろう。


ーーだけど、違った。


「急だが、予定を変更する。前座でやってもらう二曲とも、俺もステージに立ってギターを弾く」


……え?


突然のことに、全員が言葉を失い、固まるーー勿論、私も。



「レイ⁉︎ 何言ってるの! 本番まであと三十分だっていうのに、勝手なことを言うにも程があるわ!」

「ミツキもよくよく考えてみろ。俺が推薦する素人バンドが前座でただ演奏するってよりも、こいつらと俺が一緒に演奏した方が盛り上がるだろ」

「だからって!」


……確かにレイの言う通りかもしれない。今日武道館に来るお客さんの中に、私達seedsが目当ての人なんてまずいない。皆、rowdyを観に来ている。それなら、レイがステージに立った方がお客さんは喜ぶだろう。

……だけど。


「待って!」

私は叫ぶように声を上げた。レイは鋭い瞳で私に振り返る。


「確かに、レイの言うことはもっともだと思う。だけど、このステージは私達にやらせてほしいです!」

「理由は何だ? 一度も合わせてないからか? 心配しなくても、お前が作った曲くらい、本番一発で合わせられる。勿論、お前らのレベルに合わせてな」

「違う、そうじゃないんです。私達のバンドのもう一人のギターは、もう決まってるから! 他の人じゃ駄目なんです!」
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