その花が永遠に咲き続けますように




まだ幕が開く前のステージに、私達は立った。

幕の向こうに、大勢の観客がいることが気配だけでわかる。

観客は、私達seedsを観に来ている訳ではないーーそんなことは充分過ぎる程にわかっているけれどドキドキする。


……リハーサル通りの流れだったら、きっと緊張だけでなく、良い意味で高揚して、楽しめたかもしれない。



だけど今は、こんなこと言っていい訳がないとわかっているけれどーー気が重い。



「おい、そんな暗い顔してんじゃねえ。ボーカルってのは、常に瞳に光宿して、観客に歌を届けることだけを考えるんだよ」


私の斜め一歩後ろでギターを構え、立ち位置を確認するレイにそう言われる。


わかってる。そんなこと。だけど、どうしたって永君のことを考えてしまう。気にしないでとは言っていたけれど、実際にこの光景を見て、永君はどう思うのだろう?


これじゃあ、永君がいなくてもseedsが成り立っているみたいな光景じゃないか。



……とは言え、幕の向こうにいるrowdyのファンの人達に、私達側の事情は関係ない。

たとえレイがギターを弾いていても、今このステージでは、私がこのバンドのギターボーカル。笑顔で、心から、お客さん達に歌を届けなければならない。


前座では二曲歌う。一曲目はrowdyの曲の中で私が一番好きな『for me』。文化祭でも歌った思い出の曲。

そして二曲目が、私が作詞作曲をした曲ーー曲も詞も、永君を想って生まれた。


永君は、キリシマさんと一緒に関係者席でステージを観てくれるのかと思ったけれど、誰の指示なのか、ステージ袖から観ることになった様子だ。
何であの場所なんだろう、何か事情があるのだろうかと思うけれど、確かに関係者席から観るよりも遥かに距離は近い。


正直、不本意な形でのステージになってしまったけれど、どうか永君に私の気持ちが届きますように。心を込めて歌おう。そう誓った。
< 163 / 183 >

この作品をシェア

pagetop