その花が永遠に咲き続けますように
「開演一分前です!」

ステージ袖の方から、スタッフさんの声が聞こえてくる。

この幕が開いたら、そのまま曲を披露する流れだ。

『for me』は、最初の歌い出しが肝心な曲。一生懸命歌おう。



五秒前、四秒前。


三、二、一……。



幕が上がる。湧き上がる歓声。勿論この歓声達は、まさかステージにいるとは誰も予想していなかったレイへの歓声だ。観客達の目線は、殆どがレイへ注がれていることがステージの上から見てわかった。


勿論、それに対してショックを受けるなんてことはない。
そんなことはわかっていたし、注目されるのは苦手だから有難いくらいだ。



私は歌った。

声はしっかり出たし、調子は良い。

レイだけに注がれていた視線も、徐々に私達全員に分散されてきたのがわかった。



大きな失敗もなく、一曲目が終了した。


拍手に包まれながら、斜め後ろにいるレイが私に話し掛ける。


「本当、わかりやすい奴だな」


と。大きな拍手が起こっている上、小声だったから私にしか聞こえていなかっただろう。
振り返ると、彼はやっぱり私にだけ聞こえる声でこう言う。


「歌は上手いが、もっともっと感情乗るだろ。お前の歌はこんなもんじゃない」


レイからの予想外の発言に少し驚くも、これ以上何をどうしたらいいのかわからず、思わず俯く。

すると。


「ったく。だからわかりやすいんだお前は」


と言って、何故か突然ステージからはけ出す。


え、え? あと一曲あるのに? まさか、私が明らかに不満そうな顔をしたから怒らせてしまった⁉︎


レイとの演奏はリハーサルもしていないから、この後どう動いたらいいかわからない。


戸惑っていると、レイは完全にステージから消えてしまった。


困っていると、客席も異変に気付いたのか、不穏な空気が会場全体に流れ始める。
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