その花が永遠に咲き続けますように
神様は不公平だなと思っていた。


生まれてからずっと、平凡だけどこれといって不自由もなく生きていたけれど、ある日突然病気になった。


何も悪いことしていないのに、どうして俺が病気にならないといけないんだろうってずっと思っていた。口に出したって仕方のないことだから、ずっと心の中で思っていた。



将来の夢なんて大袈裟なものは、俺にはまだなかった。だけど、大好きな音楽がもう出来なくなる。それが堪らなく辛かった。



だけど、咲に声を掛けたあの日から、また音楽が出来ることになった。

咲の歌は最高だ。この歌に合わせてギターが弾けるなんてーー神様は不公平じゃないかもしれない。寧ろ、咲と咲の歌は、神様から俺への特番なプレゼントだったんじゃないかとすら思った。




『私、永君に伝えたいことがあるの。私……私、永君のことがね……』



だけどあの言葉は俺から拒絶した。大好きな女の子からの、堪らなく嬉しい言葉。
ごめん、咲。せめて最後まで聞くべきだったかもしれない。最後まで聞こうともしなかったのは、本当にごめん。


でも、未来の咲の隣にいるべき男は俺じゃない。
咲のことをちゃんと幸せにしてやれる男がきっといるはずだ。


もっと音楽が上手くて、大人で、カッコ良くて、たとえばレイみたいな……。



ここ最近、ずっとそんなことばかり考えていた。レイのことは一ファンとして好きだし、尊敬しているし、そもそも本来はアメリカの人気ロックバンドのメンバーという遠い存在のはずなのに、俺はレイに嫉妬すらしていた。



……そのレイが、何故か今、俺の目の前にいる。
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