その花が永遠に咲き続けますように
「次に演奏するのは、サクが作ったお前らのバンドのオリジナル曲だ。弾けるか?」

レイの問いに、俺は頷く。
ずっと入院していたから、皆と合わせたことは勿論なく、ギターにもここしばらくずっと触っていない。
それでも、弾ける自信はある。
だって、もらった楽譜を何度も何度も見ていたお陰で、完璧に暗譜してしまった。


「車椅子、押してやろうか?」

レイがそう言ってくれるけれど、俺は首を横に振った。

そして、立ち上がった。


少し、目眩がした。身体はフラついた。


だけど、なんとか立てる。歩ける。

これが最後かもしれない。それでいい。今だけでいいから、自分の足であのステージに立ちたい。



「……あ、でも俺、ギター持ってきてないです」


肝心なことを忘れていた。
まさか今日、自分がステージに立てるなんて一ミリも思っていなかったから、ギターは病院に置いてきた。ギターがなければ、さすがにステージには立てない。


「仕方ねえなぁ」

そう言ってレイは笑った。
そしてーー自分が持っていたギターを俺に差し出す。


「こいつは、俺が世界で最も信頼している俺だけの相棒だ。rowdyのメンバーの誰にも触らせたことはないくらいだ。光栄に思え」

「え、えっ」


勿論戸惑ったが、仕方なさそうな言葉とは裏腹にレイは俺にギターをーー彼の相棒を押し付けてきた。


高級感溢れるGIBSONのギターは、俺が普段使っているそれとは質も何も全く違うのに、何故かとてもしっくりきた。まるで、このギターは俺が今までずっと使ってきたものかのような、不思議な感覚だった。


「よし、行ってこい」

レイに背中を押され、隣にいた兄貴にも頷かれ。


俺はーー



「うん」



人生で最初で最後の大舞台に。仲間の元に。足を踏み出した。
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