その花が永遠に咲き続けますように
「出会った頃の私?」

「誰も寄せ付けずに、いつも無表情で下ばっかり向いてた。そんな咲の口から〝前向きに〟になんて言葉が聞けるとはね」


……なるほど、それで皆笑ってるんだ。ちょっと恥ずかしい。


でも、


「本当、変わったね。咲ちゃん」


恵那子が、そんな風に言ってくれて。



少し前の私は、自分が変われたと思い込んでいるだけで、実際は中学時代から何も変わらない、弱い自分のままだった。


だけど、今は。


ほんの少しは、変われたと思っていいのかな。


でもそれは、勿論自分の力だけじゃない。
ここにいる皆のーーseedsの皆のお陰だ。


中学時代の自分が小さな種だとしたら、今の自分は少しは花を咲かせられただろうか。




「それにしても、レイは何で俺達にここまでしてくれたんだろうなー」

関係者席の正面ガラス越しにステージを見下ろしながら武入君が言った。
私達がさっきまで立っていたそのステージでは、レイが先程までよりも一層ファン達を盛り上げながら熱唱していた。
少し意地悪で、クールで、だけどステージの上では誰よりも熱くて、そしてーーアメリカでも日本でもこれだけ多くのファンを魅了する、プロのミュージシャン。
どこを切り取っても、私達素人高校生バンドの思い出作りの為にここまでしてくれる要素はない。
このライブの話題作りの為、と言い切ってしまえばそれまでなのだろうけれど、それにしてはかなり尽くしてくれたように思える。
< 172 / 183 >

この作品をシェア

pagetop