その花が永遠に咲き続けますように
「あの時のこと、思い出してた?」

不意に永君が私を見て、くすっと笑いながらそう言う。


「思い出してたよ。永君が夢を話してくれた時のことをね。忘れるはずもないけど」

「ステージであんな熱烈なラブレターを受け取ったら、俺も心揺さぶられるってもんだわ」

「っ、もう!」


彼の言うラブレターとは勿論、あのステージで歌った曲のこと。


一度、言葉で届けることを妨げられてしまった私の想いは、音楽で彼に伝えることが出来た。そしてーー伝わった。



「涼しいけど、そろそろ部屋の中入ろうか。車椅子、押すね」

「ああ、うん。ありがとう」

車椅子を押しながら部屋の中へと入っていくと、不意に彼が小さく笑った。


「何?」

「ん? 優しい奥さんだなと思って」

急にそんなことを言われ、顔がカッと熱くなる。


「もう! 冗談でそういうこと言うのやめてっていつも言ってるでしょ!」

「いや、冗談じゃないし」

「顔が笑ってるから冗談とみなす! それに、奥さんじゃないし!」

「そうだった。今はまだ違ったな」

「そうだよ。入籍するのは明後日……七月十五日でしょ? 永君が言ったんだよ、七月十五日がいいって」

「うん。なんたって、seedsのギターボーカルが初めてステージに立った日だからな」


……そう。確かに七月十五日は思い出の日。文化祭で永君とステージに立った日だ。

今思えばとても小さなステージ。お客さんだって、武道館に比べたら全然少なかった。

だけどあの時の私は、とてつもなく大勢の人に囲まれているような感覚だった。
緊張した。だけど楽しくもあった。
あの時の気持ちを、いつまでも忘れたくない。
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