その花が永遠に咲き続けますように
どこかで誰かに歌を習ったことは、と洋さんが強調しながら言葉を繰り返す。


「な、習ったことはないです。子供の頃からずっと一人で歌ってました」

「へぇ……」

深刻に何かを考えるような表情で、ただ私を見つめる洋さん。彼の意図がわからずに戸惑っていると、「で、どうだったの?」と永君が再び同じ質問を投げ掛ける。すると洋さんは……。



「どうもこうも、これで独学とかバケモノかよ」



バケモノ。それは一体、どういう意味なのだろうか。もしかして、本能でただ吠えてるような歌声にしか聴こえなかったとか……? と私が不安になっていると、


「良かったな、咲。褒められて」


と永君に言われる。


「え、褒められたの? 私」

「バケモノ級に歌上手いって今言われたじゃん」

「永。そこまでは言ってねーだろ」

しかし洋さんは片手でボリボリと頭を掻きながら、


「でも、まぁ。才能と伸び代は……あるんじゃねえのか」


と素っ気なく言う。

よくわからないけれど、とりあえず永君と組んで音楽をやることを、洋さんからは認めてもらえたようだ。



「やるなら本気でやれよ。とりあえず身近な目標を決めるといい」

洋さんの言葉に、永君が「身近な目標?」と聞き返す。


「目標決めないでダラダラやるといつか飽きが来ちまうからな。この日までにこの曲を出来るようにするとか、誰かの前で演奏するとか、そういう目標を立てた方がいい」


そのアドバイスに、永君は「ああ、それならもう決まってる」と即座に返事する。もう決まってる? 私は何も聞いてないけど、と首を傾げていると……



「目標は七月の文化祭! そこで、全校生徒達の前で俺と咲の音楽を響き渡らせるんだ」
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