その花が永遠に咲き続けますように
意を決してそう告げると、永君は嬉しそうに笑った。

永君はいつも笑っているけれど、どこか飄々としていて、掴めない部分がある。

だけど今見せてくれた彼の笑顔は、今までに見た彼の笑顔の中で一番心のこもった笑顔だった。


その笑顔に、思わず胸がドキッと高鳴ってしまったのを確かに感じて、恥ずかしくなる。


私ったら。私なんかが普通の女の子みたいに誰かにときめくなんておかしいよ。友達すら作らない私が恋愛なんて出来る訳ないし、誰かに好きになってもらえるはずもない。


ていうか、永君のことだって、一瞬だけ不覚にも胸が高鳴ってしまっただけ。恋愛的な意味で好きになりそうとか、そういうことじゃない。


今は何より、文化祭でのステージを成功させることに集中しなくちゃ。



「じゃあ俺は仕事に戻るから、あとはお前ら二人で頑張れ」

ドアノブに手を掛けながら洋さんが私達に言う。
そして、肩越しに私達を見ながら、


「毎回、二時間分の利用料までなら俺のバイト代から差し引いてやる。延長するようならちゃんと支払えよ」


と言うのだから私は驚く。


「え、あ、あの! お金はちゃんと自分で払います!」

「それじゃあ毎日は来られないだろ。永と音楽やるなら半端は許さない。使用料は出してやるから毎日ここへ来て練習しろ。今聴いたところ、君は歌はかなり上手いが、もっと客に聴かせることを意識して歌う練習が必要だ」

「だけどお金は……」

「いいから。その代わり、全力でやれってことだ。あと、素人だとか失礼なことも言ったしな。そのお詫びってことにしときな」

そう言うと、洋さんは部屋から出て行ってしまった。

……失礼なことというか、私が素人なのは事実なので、お金を支払わない理由にはならない気がするのだけれど、


「兄貴は言い出したら聞かないんだ。とりあえず、言われた通りにしておけばいいと思うよ」


永君はそう言う。……とりあえず。本当に、とりあえず。洋さんの言う通りにすることにした。
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