その花が永遠に咲き続けますように
帰宅時間があまり遅くなるとお母さんが心配するので、十九時前には切り上げて帰路につくことにした。
駅までの道中は薄暗く、見慣れない道だから少し落ち着かないけれど、永君が一緒だから怖くはない。
「歩いて帰るより、自転車乗った方が早いのに」
「もう暗くて危ないから二人乗りは駄目だよ。いや、明るくても本来なら二人乗りは駄目なんだけど!」
私がそう言うと、永君は「咲、真面目ー」と言いながらプッと吹き出した。
思わず笑ってしまったといった様子の彼のその表情は、またしてもいつもの飄々としたそれとは違い、私の心臓は再びドキン、と通常より強く脈打ってしまう。
落ち着け、私。これじゃあまるで恋してるみたいじゃないか……。
「それにしても、自作の曲を披露するってのもアリだと思ったんだけどな〜」
駅に向かって歩きながら、永君がちょっぴり悔しそうに言う。
さっきスタジオの部屋を出る時、彼は突然「そうだ。オリジナル曲作らないか?」という提案をしてきた。
私も心惹かれた提案だったけれど、帰り際にそれを洋さんに伝えると『組んだばかりのお前らはまず息を合わせることから始めるレベルなんだ。文化祭までの期間でオリジナル曲をこれから作って練習して披露するなんて早い。半端な結果になるのが目に見えてる』と言われてしまった。
そして、同じ理由で私も今回はボーカルに専念することになった。つまり、ギターを覚えて弾きたかったけれど『初ステージはただでさえ緊張するのに、覚えたてのギターを弾くことで頭がいっぱいになって肝心の歌が疎かになる可能性がある』と言われたのだ。
オリジナル曲の件も、ギターも、残念だけれど今回は仕方ない。確かに洋さんの言う通りだと思うし、きっとまたチャンスはある。