珈琲プリンスと苦い恋の始まり
prologue;幸せの象徴
その木は、私にとって「幸せの象徴」だった。


毎年春になると、黒い幹や枝までもを覆い尽くすかの様に桜が咲き乱れ、花弁が散った後は青々とした葉が生い茂り、庭に木陰をもたらす。

秋にはそれが赤く紅葉して舞い散る。そして、冬には枝先に霜が付き、葉を落とした黒い木の上には、丸く白い月がぽっかりと浮かぶのを眺めた。



「愛花の名前は、このソメイヨシノに因んで付けたんだよ」


日本人なら誰でも好きだと思える桜。


「この花の様に人々に愛される娘になって欲しい」


そう言ってくれた人はもうこの世にはいない。
私を心から愛し、慈しんでくれた人達も既に亡くなってしまった。


私は孤独だ。
沢山の人の輪に包まても尚、心はずっと独りぼっちでいる___。



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