珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「……ご利用者に?」
少しの間を空けて聞き返すと、山本さんは「うん」と力強く頷く。
「この辺りは大いに過疎化が進んでるし、年を取ると大抵の年寄りは皆、家に引き込もって外へも出なくなるんだよ。…だから、せめてセンターへ来た時くらい、少しでも自宅とは違う雰囲気を味わって貰いたいな…というのが狙いでね」
さっきまでの飄々とした雰囲気は何処へやら。
山本さんは真剣そうな顔つきに変わってる。
俺はそんな話を聞いて愕然とした。
思っている以上に大真面目な話で、出前なんてして貰えるもんかねぇ…と低姿勢で訊ねる山本さんに、無下に断るのも難しいと思ったが……。
「……そうですね。出来れば淹れたてを飲んで頂くのが、うちの社のコンセプトなんですが…」
我ながら堅苦しいことを言うなと思う。
山本さん達の切なる願いを、社のコンセプトを理由に断りたくはないのだが__。
「だったら、マスターがうちのセンターに出張してくるのばどう?必要な物があれば準備はするし、調理員もなるべく手伝うから」
是が非にでも頼みたいらしく、俺はさすがに閉口した。