珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「今のは……やっぱりマズかったよな」


見えなくなっていく背中を見つめたまま呟く。
店に来た時から悄気ていた彼女のことを思い出し、はぁーっと深い息を吐き出した。


今日の彼女は、明らかに様子が少しおかしかった。

出会った時から泣いてるのかな…と思えて、知らん顔をしておくのがマズいと感じた。


幟の回収を手伝わせたのは、俺の咄嗟的な判断だ。
甘いカフェオレを飲ませたのも、泣いてるなら甘い方がいいと思ったからだ。



はぁ……と再び息を吐き出し頭を掻く。

目線を車道に向けると、彼女の車が高速で走り抜けて行くのが見え、事故でも起こさなければいいが…と心配した。


「……それにしても、どうして彼女は泣いてたんだ?」


店に入れよ…と声をかけた時も、何故か彼女の目は潤んでた。
それを見せないように俯いてはいたが、悪態も吐かないのがおかしいと感じた。

俺なりに少しでも気持ちを明るくさせようとして、彼女の父親を褒めたつもりだったが……。


「どうもそれがマズかったのかな。桜のことを口にした途端、不機嫌そうになるんだもんな」


< 102 / 279 >

この作品をシェア

pagetop