珈琲プリンスと苦い恋の始まり
それをぐっと我慢して二階の自室へと駆け上がる。
二十七にもなって親に心配を掛けさせる程、私も子供じゃなくなった。


それに、私のことで二人を煩わせたくはない。
いずれは別れるつもりでいる人達に、余計な心配なんて掛けたくもないんだ。



部屋に入るとドアを閉め、デスクを見遣りながら上に置いてるフレームへと近寄った。


「ただいま。お父さん」


メガネを片手に持ち、笑ってる写真に声をかける。
その横には祖父母の写真も飾ってあり、そっちにも向いて「ただいま」と挨拶した。


私にとっては、この三人だけが家族。
既に三人とも亡くなってしまってるけど。



「……今日ね、またあの家に行ったよ」


本当は誘われたんだ…と話す。
自分達が住んでた家のことを教えるのが、私の習慣みたいになってる。


「マスターがね、幟を片付けるのを手伝って欲しいと言ったの。
手伝ったらお礼にカフェオレを淹れてくれて、甘くするとまた別の味も楽しめるよ、と教えてくれた。
……私が泣いてること、気づいてたのかな。帰りには急に抱き付かれてビックリしちゃった」


だけど別に何もされなかったよ、と笑って話す。

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