珈琲プリンスと苦い恋の始まり
この間は一緒に夕日が落ちるのを眺めたんだと教えて、「あの人、まるでお父さんみたいに好奇心が旺盛だよ」と言った。


多分、私が心から笑うのは、この部屋の中でだけ。

母達の前では愛想笑いしかしないし、この家も今は住んでるけど、いずれは一人暮らしを始めようとも企んでる。


だけど、今はまだお金が足りない。
戸籍上は父になった昇平さんに、看護学校へ通わせて貰った時の学費を返却しきれてないから。

あと最低でも一年近くはかかる。
早く返したいけど、生活資金も貯めないといけないから大変。


(写真の現像代もかかるしね…)


安っぽい家庭用のコピー機じゃ駄目。
ちゃんと信頼の置けるカメラ屋さんで、印刷をして貰ってるから。


「なかなかお金って、思うように貯まらないね」


三人に向いて呟く。
父も祖父母も無言で笑ってて、私はやっぱりシュン…と気落ちした。



三人のうち、最初に亡くなったのは父だ。
急性の心筋梗塞を起こして、突然亡くなってしまった。

私はまだ小学二年生で、父が亡くなったことが信じられず、葬儀が済んでも一周忌が来ても、実感がまるで湧かなかった。


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