珈琲プリンスと苦い恋の始まり
布団の中で、父はスヤスヤとよく眠っていた。
私はようやくホッとして父の枕元に近付き、「お父さん」と声をかけた。

なのに、父の声は返らず、私の呼ぶ声を聞いて、周りにいた大人達が泣き出した。


「まなちゃん、お父さんによく顔を見せてあげて」


隣に住んでるおばさんがそう言って、私の隣に座った。

「お父さんが安心して旅立てるように笑顔を見せてあげようね」と話し、啜り泣きながら私の背中や肩を撫でたんだ。


「お父さん、何処か行くの？」


不安になって訊ねたら、おばさんは涙を拭いながら「天国からお迎えが来たんだよ」と言った。
「こんなに早く…」と言葉を詰まらせ、私はそれを聞いても納得がまるでいかず。


振り向いて父の顔を見て、もう一度「お父さん」と呼んだ。
だけど、父はやっぱり無言だった。


何度も何度も、しつこいくらいに呼んだけど返事がない。
そのうちようやくおばさんが言った意味が分かってきて、父はもう声を出せないんだ…と気づいた。



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