珈琲プリンスと苦い恋の始まり
珈琲豆のランクを落とし低価格で提供している、と言うと大きく目を見開く。
父は「ボランティア!?」と驚くような声を出し、それに大真面目な顔で頷いた。


「地元の常連客から相談をされたんだ。施設を利用するご老人達に本格的な珈琲を味わって頂きたいから出張してきて貰えないか…と」


自分が好きで行っている、と言うと、父は変な顔つきをした。
俺がボランティアなんぞに興味があったのか…と思っているみたいだ。


「そうか。…まあいいだろう」


(深く追求もしないでスルーしやがったか)


父の態度が気に入らないと思いつつ、再び資料に目を落とした相手を見つめ、思いきって「聞きたいことがある」と声を出した。


「何だ」


顔も上げずにいる相手に近づき、デスクのすぐ向かい側まで行くと、上半身を傾けて父の視界に入った。

資料を見ていた父も邪魔くさそうに顔を上げ、「何だ」ともう一度訊き返す。

俺は何から訊ねるべきなのか、と少し迷ったが……。



「あの家を何処から買ったのか教えろ」


唐突な訊ね方をした。
親父はそれを聞いて、少々困惑気味な様子だった。


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