珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「…はい……はい。そうですか。分かりました」


サラサラとメモを取った玉木さんは、「お忙しい時間に有難うございます」と言って電話を切った。
受話器を置くと俺の方に振り返り、「分かりましたよ」と微笑む。


「売主は地元の不動産会社でした。一応社名と住所、電話番号を教えて頂きましたが」


こちらです…と渡されたメモには、『モリモト不動産』と書いてある。


「ありがとう。手間を取らせました」


俺はそのメモを受け取り、玉木さんに頭を下げた。
彼は人の良さそうな笑みを見せ、「いいえ、これくらい何でもないですよ」と笑った。



彼に見送られて本社ビルを出ると、たまには都会を彷徨くのもいいか…と思ったが。


(いや、直ぐに帰って、あの家のことを訊ねよう)


ビルの前でタクシーを捕まえ、空港に向かいながら思い出していた。

出会いからこっちの、彼女の様子を___。


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