珈琲プリンスと苦い恋の始まり
俺は面食らうような気持ちでいて、直ぐにそれには答えられなかったんだが__。


「…あの、彼女……江崎さんは、以前は何という名字でしたか?」


惚けた感じのままで聞いてしまった。
山本さんが、それについて知り得る筈もないと思うのに。



「愛花ちゃんかい?確か『川並』と言ったよ」


「ええっ!?」


大きな声を出すとビクつかれ、「すいません!」と謝った。


「それ確かなんですか!?どうして山本さんが知ってるんです!?」


怒るような気持ちで問うと、彼女はそりゃ…と声を出した。


「愛花ちゃんが、お祖母さんと一緒にこの家に住んでた時期があるからだよ。その時、この家の表札は確か『川並』と掛かってた筈だから」


「ええっ!?」


「話したことなかったっけ?私はこの家と同じ自治会に入ってるんだけど」


田舎には自治会制度があると言い出し、「マスターは自治会に入ってないのかい?」と聞いてきた。


「俺はそういうのには全く関心がなくて」


多分、入ってないのでは…と言うと、「駄目だねぇ」と叱られた。


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