珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「そうだよ。この庭にあった桜を見て、愛花ちゃんのお父さんが付けたんだよ。

『この桜のように人目に付いて、沢山の人から愛される女性になって欲しい』という意味合いでね。

何せここの桜は町内の人だけじゃなく、通りすがりの人達も足を止めるくらいに見事だったからね」


思い出すような顔つきで山本さんは俺のことを見返す。
まるで、その桜が彼女自身を表してたんだと言われてるみたいで、さーっと血の気が引いてきた。


「何だい、それは知らなかったの？」


そもそも誰に名付けの理由を聞いたのかと訊ねられ、悠々の事務所の社員ですと教えた。


「ああ、西田さん？あの子は何も詳しいことは知ってないから駄目だよ。

愛花ちゃんは自分のことをベラベラと他人に話すような子じゃないし、表面的には仲良くしてるように見えても、実際は誰にも深入りをしないしさせないんだから」


珈琲のカップを手に持つと、山本さんはそう話して飲み込んだ。
俺がその様子を黙って見ているのに気づくと、カチャとソーサーの上に戻し。


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