珈琲プリンスと苦い恋の始まり
疑問を口にして目を瞬かせる。
この家に彼女が暮らしていたことを知っているとは、到底思ってもない様子だ。


俺は彼女の姿を真っ直ぐと見返した。
小柄な彼女が俺の話を聞いて、取り乱したりしなければいいが…と願いながら__


「だって、此処にあった桜は、君の名付けの元になったものなんだろう?
毎年見事な花を咲かせて、人を楽しませてきたと聞いたよ。

そんな花のように、沢山の人から愛される女性になって欲しい…と願われて、君の名前は付けられたんだよな?」


愛花と…と結ぶ俺の声を聞き、彼女は流石に愕然としている。

そのうち目線が泳いで彷徨い始め、指の先も小刻みに震えだした。


「…どうして、それを……」


知ってるの…と声も出せない様子で窺っている。


「…ごめん。君の名前を付けてくれたお父さんが亡くなったことも人伝てに聞いたんだ……」


敢えて山本さんの名前は出さなかった。
話せば職場で気まずくなると思い、伏せておこうと配慮した。


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