珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「私が生まれた頃、既に樹齢五十年以上は経ってたんだと思うの。私の祖父が子供の頃には既に庭先にあって、毎年満開の桜を咲かせていたと聞いたから」


この家が建てられた時に、もしかして植えられたのかもしれない…と話す。


「家の繁栄を願ってと言うか、多分そんな意味合いだったと思うのよ」


ハッキリしたことは分からないと囁き、「その真相を知る人は、もう誰もいないから」と言った。


「私の名前を付けれてくれた父はね、中学の理科教師で、生物が専門だった。
そこを目指したのもあの桜が庭先にあったからで、花弁や葉っぱを調べているうちに、どんどん植物や昆虫について詳しくなっていったんだって」


亡くなったお祖母さんから聞かされた…と話し、自分も子供の頃はいろんな事柄を父から教わった…と微笑んだ。


「この間、磯で貴方に教えたアメフラシとナメクジの違いね、実はあれも父に教わったの。子供の時、私がアメフラシを見て『大きなナメクジが海にいるっ!』と叫んだから」


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