珈琲プリンスと苦い恋の始まり
俺は流石に彼女が気の毒に感じられて、カウンターを回り込んで隣の椅子に腰掛けた。

彼女は俺が側に来ても構わず話を続け、自分がこの家で一緒に住んでた頃、祖母が布団の上で亡くなってるのを見つけた…と言った。


「ハッキリ言って、(また!?)って思った。自分が見つけるのは身内の死ばかりで、見送ってばかりだと思ったの。

何度も何度も嫌だって感じた。もう誰も、亡くならないで欲しいと思った……」


涙声に変わる彼女の側に近づき、「大丈夫か?」と訊いた。
彼女は俺に振り向いて目に涙を浮かべたまま頷き、「聞いて欲しい…」と願った。



「いいよ…」


俺は彼女の肩を抱いてやった。
すると、彼女方から俺の肩に顔を寄せて……。


「こうしてると不思議。貴方がまるで父みたいに思える」


彼女にしてみたら、俺に話すことはつまり、亡くなった父親と話してる様な気分なんだろう。

それでも今はいいか…と考え、何でもいいから話してごらん…と伝えた。


彼女は息を吸い込むと、思い浮かんでくる話を、次から次へと止め処なく喋る。

< 158 / 279 >

この作品をシェア

pagetop