珈琲プリンスと苦い恋の始まり
ハラハラ…と涙が頬を伝って流れていく。

それを見てると堪らない気持ちがして、ぎゅっと彼女の肩を抱き締めた。



「ありがとう……平気だから」


そう言うけれど、彼女の目から落ちる涙の量は減らず、止めどなく流れてきては下へ落ち、これでは埒があかないと思ったのか、彼女自身がハァ…っと短い息を吐き出した。


「もうそろそろ仕事に行かないと」


涙を溢し続けたまま言う彼女を、俺は「待って」と止めてしまう。

このまま彼女を車に乗せてしまいたくない。

あの夜と同じようにスピード上げて行きそうな気がして、「俺に送らせて欲しい」と頼んだ。



「えっ…でも、貴方にはお店が……」


あるんじゃない?と問いかける彼女に、「いいんだ」と声を返した。


「悪いけど今は一緒に居たい。その方が、俺が安心するから」


頼むと頭を下げると彼女は困ったような顔をする。
自分の車を俺が運転するのか…という顔つきでいて、俺は「自分の車で施設まで送るよ」と言った。


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