珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「お待たせ」
電話をしてから二十分後、彼は『悠々』の手前の道路に立つ私の側へ車を止めてウインドウを下げた。
「すみません。わざわざ来てもらって」
頭を下げながら断りを言い、彼を見ないように努める。
「いいよ。俺が迎えに行くと言ったんだし」
乗れば?と助手席のドアを開けようとしてくれる。
何処までもサービス精神が旺盛な人の手を止め、自分からドアを広げて中に入った。
「腹空かない?お昼も食べずじまいで仕事だったろ」
ハンドルを切りながら問われ、それは自分が泣き過ぎてしまった所為だと思った。
それに確かに空腹ではあるけど、彼に気遣われることでもないと思うから__。
「大丈夫。家に帰ればきっと夕飯も作ってあるし」
母がきっと作ってる。
私ではなく、昇平さんの為に。
「…そうか、残念だな。一緒に夕食食べようかと思ってたのに」
あーあ…と声を出す彼の横顔を見て、不覚にもキュン…と胸が狭まる。
昼間のキスが記憶の隅を掠めてしまい、(馬鹿馬鹿!)と頭の中で自分を詰った。