珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「俺、この辺りで美味しい店を探したくても分からなくてさ。観光客に噂を聞いても土地勘がまるでないから、いつも話を聞くだけで終わるんだよな」


刺身の美味い店があるんだろう?と言うもんだから、「そんなの何処にでもあるじゃない」と素っ気なく言うと。


「そりゃそうだけど、俺はこの土地でしか味わえないものが食べてみたいんだよ。折角縁があって、此処に店を構えたんだから」


せめて道案内だけでもして欲しい、と甘える。
どうして私が…と呆れ、拒否してしまおうかとも思ったけど。


(この人に恩を感じたまま死んでしまうのも嫌だし)


一寸先は闇だ。
だから、せめて恩だけは返しておきたい。


「それじゃ一軒だけ教えるよ。お寿司屋さんなんだけどいい?」


当然ながら皿は回らないよ、と言うと、彼は嬉しそうに振り向いた。


「何処でもいい!ついでに一緒に食べよう!」


自分の店に戻るのは後からにしようと決めてしまい、私の反論する声なんてまるで無視する。

おかげで私は彼に煩いことを言うのも次第に馬鹿らしくなってきて__。


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