珈琲プリンスと苦い恋の始まり
一回目の出張喫茶店はそれから十日後に行われた。

センター長の大谷さんは、事前に利用者の家族に向けて、不要な家具等があれば寄贈して下さい…と頼んだらしく、会場となった会議室の中には、昔風な柄の襖や格子戸、障子なんかが壁一面に張り巡らされている。

それに掛け軸や柱時計、桐タンスなんかも飾られ、ぱっと見は本当に昭和以前の様な雰囲気に設えられていた。


「凄いですね。火鉢ですか」


卓袱台までがあると驚く俺を見て、大谷さんはご満悦だ。
大したもんでしょう、と胸を張り、存分に楽しんで淹れて下さいと勧められた。


俺は用意してもらった鉄瓶でお湯を沸かし、丁寧に珈琲を淹れて提供。

利用者の方には深煎りではなく浅煎りの豆を使い、希望があればカフェオレも作ってやった。


価格も店で出す値段の半額に変更した。
一杯五百円以上の珈琲を高齢者が飲むとは思えなかったからだ。



「大丈夫ですか?その値段で儲けは出ますか?」


予想以上の盛況ぶりだったせいか、大谷さんは俺の店の収支を気にしてくれる。


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