珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「あの電話は和恵さんだな」


大将は呆れるように呟き、俺に振り向くと「まだ何か握るか?」と訊いてきた。


「…いえ、もうお腹一杯です」


ご馳走様でした…と箸を置き、彼女が戻る前に精算だけは済ませておきます、と財布を取り出した。



「へぇ…、ゴールドカードか。凄いな」


金持ちだなぁ…と言われ、持ち合わせがないもので…と言い訳をする。


「金持ちは誰でもそう言うんだよな」


キャッシュを持たないのが常だろ、とつっ込まれ、苦笑するしかなかったが。


「あんたみたいなのが愛花ちゃんの彼氏になってくれると、昇平達も安心するんじゃないかと思うんだけどな」


違うんだろ?と再び確かめられ、それには答えようがなく困った。


「あの…さっきから言ってらっしゃる『昇平さん』というのは?」


「なんだよ、知らねぇのか?昇平は愛花ちゃんの父親だよ。和恵さんというのが母親で、二人は和恵さんの前夫が亡くなった後に再婚したんだ」


つまりは継父だな、とハッキリ認め、なかなかどうして難しいみたいなんだ、と話した。



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