珈琲プリンスと苦い恋の始まり
それで、さっきは母親からだと分かったんだなと納得がいき、彼女の母親がどういう経緯で再婚されたのかを聞いてますか?と訊ねてみた。


「さあ…、それは俺も聞かせてもらってねえよ」


秘密にしておきたいこともあるんじゃねえか?と問われ、まあそれもそうですね、と笑った。

無粋なことを訊いてすみません、と謝ってるところへ彼女が戻り、俺は支払いは済ませたから帰ろうと言って立ち上がった。


「えっ…」


彼女は驚いたように目を丸くしている。
俺は引き戸の前に立つ彼女の側へ寄ると肩を抱き、「また来ます」と後ろを振り向いて言った。


「ああ、待ってるよ」


大将は微笑みながら答え、自分の手で引き戸を開けて外へ出た。
扉を閉めると彼女は俺の手から離れ、「自分の分は支払います」と財布を取り出そうとした。


「いいよ。また今度で」


それよりも早く帰らないとマズいんじゃない?と訊くと、ぐっと唇を結んでしまう。


「…今日の分は、今日払ってしまいたいのに」


悔しそうに呟くもんだから呆れる。
そんなに貸しを作りたくないのか…と言いたくなり、彼女の側へと近付いた。


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