珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「平気ですよ。此処には最初からボランティアのつもりで来ていますし、珈琲豆にもランクがあって、店に出すものよりも若干安いものを使用させて頂きましたから」


採算はトントンです、と話すと安堵された。

是非また宜しくお願いします、と言われて見送られようとしたところ、送迎バスに利用者を連れてきた女性の姿が目に入った。


背中の曲がった足元の悪そうな老女の腕をしっかりと握り、「気をつけて」と声をかけながらステップを上らせようとしている。


利用者の老女は「ありがとね」とお礼を言いつつバスに乗り込み、介助していたスタッフらしき女性と手を振り合って別れた。



(あの人は…)


この間、利用者の間をちょこちょこと動き回っていた女性だ。小柄でストレートの髪の毛が肩まであって、顔が小さくて唇がきゅっと締まっていて……。



「何ですか?知り合いですか?」


俺がセンターから出る気配も見せずに立ち竦んでいたからだろうか。大谷さんが不思議がって俺の視線の先を見る。


「……ああ、江崎さんですね」


そう言うと俺を振り返り、もう一度「ご存知なんですか?」と訊き返した。


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