珈琲プリンスと苦い恋の始まり
だから、俺は人とは深く関わっておきたいし、もしも急に亡くなったとしても、自分のことをずっと思い出してくれたらいいなと思うよ。

思い出して笑ったり泣いたりして欲しい。記憶の端にずっとに留めておいて、いつでも引き出してくれたら有難いなと感じる」


言いたいことを言ってしまうと、どう思う?と訊ねられた。私は彼の横顔を見つめ、強く唇を噛んだ。


「……それは、貴方が亡くなってしまった人を見つけたことがないから言えるのよ」


振り絞るように声を出すとぐっと息を吸い込む。
頭の中では、亡くなってる父や祖母の姿が蘇り、嗚咽や動悸が溢れ返りそうになった。


「冷たい体に触れたことがないから言えるの。
前の日まで笑ってた顔が、眠ったままで動かないのを見てないから言えるの!」


ぼろぼろと我慢しきれずに涙が溢れ出す。
それをバッグの中から出したハンドタオルで堰き止め、大きく深呼吸を繰り返した。


彼は心配そうに私を見つめ、路肩に車を寄せて停まった。
自分の言った言葉が過ぎたようだと反省しているような眼差しで、私は余計な気遣いをさせないように…と話しだした。


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