珈琲プリンスと苦い恋の始まり
それできっと私のことを怒ったんだ。

自分の価値観に合わないから、私に生き方を変えろと言いたかっただけなのかもしれない。


(そんなに易々と変われる訳ないじゃん)


そもそもあの記憶は無くならないんだ。
胸に深く刻まれて、誰にも侵されない場所に潜んでるから。


そうだよね…と亡くなった人達の写真を見た。
帰って直ぐに「ただいま」を言わなかったのは初めてだと思い、起き上がって「ごめんね」と呟いた。


「三人とも、私には前向きに生きて欲しい?」


問いかけると「勿論そうだ」と言われそうだ。
だって、自分がもしも死んだ立場なら、母にも前を向いて生きてと願うだろうから。


「でも、私は分からないの」


息を吸った途端、閉じた目が再び開かない日が来るんじゃないかと思うと怖い。

培ってきたもの全てを放棄して、否応なしに人生の幕が閉じるかもしれないと考えるだけで怖くなる。


そう思うと簡単に前を向いてなんて生きれない。
大事に思うものも作りたくないし、温もりも欲しくないと思う。


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