珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「けれど、それは間違いなのかもしれないね…」


彼の言うように、生きてる間に大切だと思うものを作っておく方がいいんだろう。

誰かに恋をして愛を知り、自分の血を分けた者をこの世に残すことも大事なのかもしれないけど__。


「だからと言って、急には変われないよ」


恐怖心があるうちはきっと無理。
希望も期待も飲み込まれて、失速していくと思うから。


「彼はいいよね。私と同じ体験をしたことがないから気楽で」


きっと理解はして貰えない。
桜を失った失望感は分かっても、あの場所で私がどんなに幸せだったかは想像が出来ない筈だ。


「あの頃と同じには戻れないんだから。時間は決して、逆行していったりはしないんだから」


混沌とした気持ちが渦巻く。

珈琲の黒さとミルクの白さが入り混じったような感じで、二つの思いがいつまでも溶け合うことなく、ぐるぐると胸の中を回っていた__。


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