珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「…あ、いや、そういう訳では…」


バツが悪い気がして、知り合いに似てる様な気がしただけですと誤魔化した。

大谷さんは「そうですか」と別に気にする様子もなく、「彼女は此処で働く看護師ですよ」と教えてくれた。


「看護以外にも機能訓練の方も担当して貰っています」


機能訓練指導員という免許を持っているらしく、週に二回ほど遊びを兼ねたリハビリ体操を利用者にしていると説明する。


「年寄りに親切で人気者でね。自分の孫の嫁になって欲しい、とよく揶揄われてますよ」


大谷さんは面白そうに話して「それじゃまた再来週お願いします」と見送った。

俺はその言葉に会釈を返し、自動ドアをすり抜けながら、バスを見送る女性の姿をちらっと視界に収める。



(あの人はやはり、この間店に来た女性に似てる……)


あの背中の雰囲気がよく似ている。
俺の直感が間違いではない気がするが……


(江崎とか言ってたな)


下の名前は何と言うのだろうかと考えながら足を進ませた。

その後ろ姿を睨むように見つめられているとは知らず、駐車場に停めている車のロックを外して中に乗り込む。


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